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翻訳の世界 by Fujiwara
〜翻訳ってどんな仕事?どんな生活?そしてどんな楽しみが・・・〜


第2回 仕事をゲットするまで

前回お話したように、翻訳者には免許も資格も必要ない。英検とかTOEICなど知名度の高い英語関係の試験はあるが、英検1級、TOEIC900点を取ったからといって翻訳者になれるものでもない。むしろ知名度は低いが、産業翻訳の登竜門として知られているほんやく検定が有用である。ネットを利用して在宅受験ができ、合格1級から3級までの成績を得れば仕事を得られる可能性も高くなる。これをキッカケに仕事を得た翻訳仲間は意外と多い。

実は私の場合、ほんやく検定をはじめとして公的な英語の資格は全く持っていない。元々英語は苦手ではなかった。だが翻訳という仕事が具体的にどんなものなのか、どのレベルを要求されるのかがさっぱりわからない。そこで翻訳学校に1年間通学した。現役で活躍しているプロの先生に教わったことは、今でもためになっている。具体的な英語力の問題よりも、プロとはどういうものかという認識を深められた点が大きかった。誤訳は許されないこと、常に最新情報を入手しながら勉強を怠らないこと、そして仕事を始めたら黙って3年間がんばり通すこと、等々多くのアドバイスをいただいた。英語が好きな人、英語が得意な人は世の中多いだろう。アマチュアとプロの差というと、常にクライアントが満足するレベルの仕事をコンスタントにできることではないだろうか。与えられた仕事を淡々とあるレベルでやり続けるのは意外と難しいものだ。

翻訳学校に通っているうちに、ある程度プロのレベルというものがわかってきた。そして、先生からは実際に仕事をやりながらレベルアップするのが一番だとも言われた。授業と仕事ではお金も絡んでくるので真剣さが違うのは当然だろう。翻訳の仕事はクライアントからダイレクトというのもあるが、エージェントを通すことが多い。エージェントに履歴書を送って、そこのトライアルを受けて合格して登録されるという手続きを踏まなければならない。応募者として困るのは、エージェントから実務経験3年以上とかの登録条件が設けられていることである。初めて仕事を獲得しようとして実務経験なんてあるわけがない。実務経験があるように見せかける・・・なんてこともできないし、ここは悩むところだ。実際には理解のあるエージェントは実務経験を問わないところもある。また前述のほんやく検定をとっていれば評価も上がるので、実務経験のない人にはいい方法だろう。当時の私は実務経験も資格もなかった。正直に履歴書にその旨を書き、自分のセールスポイントややる気も熱心に記入した。かなり履歴書書きには神経を注いだ。そして、何社からは全くなしのつぶて、何社からはトライアルが送られてきてそれに合格して登録ということになった。そのうちの1社から突然仕事依頼の電話が入ったのはそれからまもなくのことだった。


第1回 翻訳者とは

「在宅で翻訳の仕事をしています」と言うと、「カッコイイですね」「いいですねぇ」という言葉をもらうことが珍しくなく、逆に戸惑ってしまう。篠田節子さんの『女たちのジハード』に翻訳者を目指す元気なOLが登場するが、彼女の動機は得意な英語で自立することだったと記憶している。結局彼女は挫折してしまうが、篠田さんの翻訳者の描き方はとても正確で実情をよくご存じのように思えた。外国語(主に英語)と日本語の橋渡しとなる知的な仕事でしかもフリーで気楽にやれるように見えるかもしれないが、あえて知的という言葉を入れるとしても「知的肉体労働」であることに異議を唱える翻訳者は少ないだろう。それまでは徹夜なんかしたことがなかったのに、翻訳者になってから今までどれだけ徹夜をする羽目になったことか・・・。プロとしてピンからキリまであるのは当然だが、「マクド」のバイトの方が安定している、というのもまんざら嘘ではない。お金を稼ぎたい人には向いていない職業だし、1日の生活は極めて不規則だ。同業翻訳者を見ていると、ストイックだなぁと感心させられることが多い。まずデメリットをあげたが、それでも言葉を訳すという作業には大きな楽しみがある。翻訳とは「言葉探し」とも言えるかもしれない。ピタリとくる言葉を探し当てた時の快感は、翻訳者冥利に尽きる。

翻訳者といっても様々な種類がある。大きくわけて、小説などを訳して出版する出版翻訳、書類やマニュアルなどを訳すビジネス翻訳、映画の字幕・吹き替えを含むメディア翻訳がある。実際にはビジネス翻訳者が市場も大きく、翻訳者数も多い。私もビジネス翻訳者で、その中でメディカル(医薬系)を専門としている。ビジネス翻訳はコンピュータ、メディカル、機械、特許、金融など多岐にわたり、すべてを扱うジェネラリストよりもいずれかの専門を選んでいる翻訳者の方が圧倒的に多い。翻訳者になりたい人ならば、どの分野を目指すかを予め決めておくことをお奨めしたい。ただ出版翻訳と字幕翻訳は一人前になるには狭き門のようだ。もちろん戸田奈津子さんのようになるのが不可能ではないのだから、自分が好きな分野を選ぶことも大切だろう。長期間プロとしてやっていこうと思ったら、嫌いなものを仕事にすることほどつまらないことはない。あくまで自己責任の世界。しっかりビジョンを持って仕事をしたいものだ。

翻訳者には医師や教師のような免許は必要ない。次回からはどうやって翻訳者になったのか。具体的にどんな仕事をしているのかなどをお話していくつもりだ。