元に戻る

今月のお題  『身分証明書』     

金融機関をはじめ、レンタルビデオ店などで「アナタであること」を証明してくれる身分証明書。でも、その証明には、”絶対”ではないことの危うさも見え隠れします。

藤原 佳枝

『身分証明書と住基ネット』

身分証明書を求められたときに思いつくのは、運転免許証、パスポート、健康保険証だろうか。しかし、この身分証明書、その気になれば偽造できるらしい。ネットでも怪しげな偽造情報が出回っている。昨年から稼動した住基ネットのサービスで住基カードが交付され、写真付きカードは身分証明書として活用できるとのこと。特に運転免許証やパスポートを持たないお年寄りには便利といえる。
この住基ネットにより将来電子政府ができると、自宅のパソコンから住基カードによる本人確認後に、各種の行政サービスを受けられる。将来のIT国家を目指す日本には必須のもの、と政府やお役人の弁。しかし、個人情報は本当に安全なのだろうか。高度な暗号技術や個人認証技術が必須なのは言うまでもないこと、お役所の職員が悪い心を抱けば、たちまち崩れてしまうだろう。本当に問題なのは技術よりも扱う人間の側の問題だ。これはどう対処しても完全にコントロールできるとは思えない。これからもネット社会が進化していくのは間違いないが、個人情報が完璧に守られるとは正直思えない。


宇都宮 雅子

『図書館の攻防』

昔から図書館やレンタルビデオ店をよく利用するのだが、数年前から利用者の身分チェックがかなり厳しくなった。貸し出しカードを忘れたら、まず貸してくれない。どちらも定期的に通っているので貸し出し係員に顔を覚えられているのだが、そんなことは関係なし。「カードがないとお貸しできません」とにべもない。
以前、図書館で仕事で必要な本を大量に借りようとして、図書カードを忘れたことに気がついた。「しまった!」と思ったが後の祭り。本を読まないと仕事は進まないし、納期に余裕はない。「仕事で必要なんです。なんとか貸していただけないですか」と窓口の女性に泣きついたが、「お貸しできません」の一点張りだった。
カードを忘れたのは明らかにこちらが悪い。しかし、あまりつっけんどんに言われると、だんだん腹が立ってくる。免許証は常に携帯しているのだが、それで新しいカードを作るのもNGだという。要するに、一旦家に帰って貸し出しカードを持って出直してこい、というわけだ。
レンタルビデオ店は純粋に商売でやってるわけだし、貸し出しビデオをそのまま持ち逃げされたら大きな痛手だというのは理解できる。公立の図書館も本の紛失被害が後を絶たないという新聞記事を読んだことがあるが、免許証という身分証明をこちらは提示しているわけだから、身分照会して貸し出してくれるサービスがあってもいいのでは? おそらく業務多忙を理由に断っているのだろうが、民間企業に勤める立場から見ると、彼らが「業務多忙」に見えないところが哀しい。



福留 順子

『「身分を示す」って何?』

身分証明書を持っていたのは、いつのことだろう。小学生までは、当然ながら無い。中学生高校生時代は、生徒手帳が身分証明書だった。大学生のときは学生証明書。社会人になってからは社員証がある会社に勤めたことが無いままフリーになったので、結局社会人になってから身分証明書という確たるものを持ったことが無い。パスポートを取ったこともあるが、もう期限が過ぎて久しいので、いまは免許証が身分証明書代わりになっている。
しかし、身分証明書って、何なのだろう。免許証は写真があるから、私が私であることを証明するものにはなっている。が、免許証が無ければ保険証でいいですよ、と言われるときもある。果たして、保険証で身分証明書になるのだろうか?他人の保険証を使っていても、判らないではないか?
母が無くなって、さまざまな手続きをしたが、私が私であること、また私が母の子であるということを証明することは大変だった。戸籍謄本や抄本、住民票、そして母の同じもの。両親がともに死亡しているため、また戸籍謄本を取るのが大変だ。亡くなるっている人の謄本は、戸籍謄本とは言わないのだということも初めて知った。「鬼籍」になるのだそうだ。いってみれば、幽霊の戸籍というところか。そして、「鬼籍」の謄本料は、高い。それでも、さまざまな書類を集めるのに、住所がわかっていれば、結局は誰でも取れる。
日常深く考えることが無いが、よくよく考えてみれば悪意があれば、だれでも「私」に成りすますことも可能である。それを考えると、ぞっとする。