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秋号のお題  『和菓子・洋菓子』    

 巷ではスイーツが大人気。フルーツたっぷりのケーキにふんわりサクサクのシュークリームにと、ダイエットなんて言っていられませんっ。もちろん、和菓子も捨てがたい!
スイーツのような華やかさはないけれど、考えてみると日本の伝統行事には、和菓子がなくてはならない存在。十五夜の月見団子、彼岸のおはぎ、七五三の千歳飴、春になると、雛節句の雛あられに菱餅、端午の節句のかしわ餅…。どちらにしても、それぞれの職人さんが心を込めて手作りした味とその姿の美しさは、甲乙つけ難いものですよね。


森 たかこ



 秋においしい栗。同じ素材でも作り方によって全く違ったものになってしまいますね。
和菓子だと栗きんとんや栗羊羹が真っ先に思い浮かぶのだけれど、砂糖と栗のシンプルな甘さが、疲れたときには本当にうれしいですよね。渋めのお茶と一緒にいただくと、ああ秋だなあ、って、寂しいような嬉しいような複雑な気分になってしまいます。
 洋菓子だと、代表的なお菓子はマロングラッセやモンブランですかねえ。こちらも香りの高い熱い珈琲と一緒にいただくと、幸せーな気分になりますね。
 でも洋菓子はあまり季節感は無いですね。季節の素材を使っていても、です。どうしてでしょうか。きっと、日本ほど季節を気にしないお国のお菓子だからかもしれないですね。
 だけど私はどちらも大好き。私にとって和菓子も洋菓子も、味わう楽しみはささやかながら、生きている喜びの一つでもあるようです。



藤原 佳枝

お砂糖よ

「嫌いなお菓子は?」と聞かれたら返答に困るぐらいお菓子好きの私。ちょっと疲れたときには、体の方が欲しているのがわかる。特に日本は和菓子、洋菓子、様々な種類の美しいお菓子が売られている。外国で食べるお菓子は、大きくて大味でがっかりすることも多い。
ふとした動機で、今年の春お菓子教室に通った。洋菓子、いわゆるケーキ類がメインであったのだが、そこで実感したことがある。とにかくびっくりするぐらいの砂糖を使うのだ。市販のお菓子はそれ以上の量を使っているのは当然だ。砂糖を少なくすればいいかと言えば、砂糖の力で膨らむのだからやたらと減らすことはできない。日常の料理で使う砂糖には気を配っても、買ってくるお菓子の砂糖は無視しがち。目に見えないというのは恐ろしいものだ。
塩分・糖分気をつけないといけない年齢になってきたのだから、健康のためにお菓子の量にも気をつけなければ。とはいえ、楽しみのためにもお菓子をやめることはできない。禁酒日のように、禁菓子日を作ることを真剣に考えるこの頃である。日頃実感していない方は、一度自分でケーキなどを焼いてみられたらいいのでは。


伊藤 さおり

技と味覚がたっぷり

この時期、雑誌では「秋の新作ケーキ特集」が花盛り。私も何度かケーキ屋を取材したことがあるが、栗やサツマイモを使った期間限定商品など、素朴な中に秋の味覚がぎゅっと詰まっており、心惹かれるものである。ケーキ職人(この呼び方はすでに死語?)にとっては、どこのお店でも使う素材をいかに自分の店の味として表現するのかが、腕の見せ所だ。そんなしっとりと穏やかな季節が過ぎれば、次はケーキ屋にとって一年で一番忙しい、クリスマスシーズンの到来だ。以前取材したある有名店の若きパティシエは、華やかな世界に見えるけれど精神的・肉体的にとても辛く、辞めていった同期生も少なくないと教えてくれた。甘いケーキの中には、実はたくさんの汗と涙も詰まっているのだ。
一方、もっと身近にあっていいはずの和菓子に、私自身あまり縁がない。美味しいと評判のケーキ屋は近所に何軒もあるのに、和菓子屋はない。雑誌でも「秋の新作和菓子特集」というのは見ない。和菓子もケーキ屋に負けないくらいに職人の技が込められ、季節の彩りも表現されているのに、である。茶道に親しんでいる人でなければ、「丹波屋」でおはぎを買うくらいがオチである。香高い紅茶とケーキもいいが、たまには渋〜いお茶と和スイーツでホッと和みたいものである。


福留 順子

好みは変わる

小さい頃から、ケーキ大好きでした。チョコレートも大好きでしたが、食べ過ぎて小学生ながらよく胃炎を起こしていました。夕飯後に帰ってきた父が、たまに、好きなケーキを買ってやる、とケーキ屋さんに連れて行ってくれました。お腹いっぱいでも、気を使って買ってもらい食べたことを覚えています。子どもも、結構、人付き合いが大変です。
大きくなって茶道を習い始めたとき、最初に言われたことが「出されたお菓子は食べるように」でした。私、豆が大嫌いでした。大豆で作った豆腐屋さんで売っているものも、和菓子屋さんの餡子関連物も、お赤飯も小豆を除かないと食べられません。その私にお茶菓子の和菓子を食べなさい、というのです!
あれから月日が経ち、すっかり和菓子大好き人間になりました。豆腐も豆腐屋さんに売っている他のものも、お赤飯も、食べることができます。強制的に食べさせられると、そのうち、食べられるようになるものですね。
その分、ケーキのこってり度加減が、少々、食べづらくなりました。もちろん「カロリー高い」という情報が食欲のブレーキを掛けていることは確かですが…
今や洋菓子和菓子を食べる頻度は、洋菓子は家人の誕生日のときくらい、和菓子はもらったときくらいでしょうか。洋菓子オンリーから和菓子も食べられるようになるという「好み」は変わるものですね。それにつけても、何にも気にせず、ケーキをお腹いっぱい食べることができた頃に、戻ってみたいなあ。



宇都宮 雅子

和洋折衷

この夏、「コンフィチュール」なるものの取材仕事を受けた。
「コンフィチュール?なにそれ?」と聞き返されることが多いのだが、単に「ジャム」をフランス語で言っただけ。大量生産ジャムとはひと味違うジャムということで春先からマスコミが取り上げはじめ、都内には専門店もオープンした。
取材させていただいたオーナーシェフの中に、和素材をジャムに利用する人がいた。彼の創った商品はあんこのコンフィチュールや抹茶のコンフィチュールなど、和洋折衷で目新しい。「西洋生まれのお菓子を美味しいと思う一方で、我々日本人があんこを美味しいと思う気持ちも止められない」と語るシェフ自身、実家は和菓子屋さんだったらしい。
そう、まさにシェフの言葉通り! ケーキも美味しいが、どら焼きだって止められない。いろんなところで和洋の味が楽しめて、気軽に美味しいお菓子を買って帰れる、この国に生まれたことに感謝しよう。
後日談だが、表参道で中洋折衷のケーキを買って帰った。杏仁豆腐風やマンゴーなどを多用した品揃えの店だ。帰宅して一口食べてガクゼン! ・・・不味い。600円もしたのにこの味か?と食べながら怒りがこみあげた。念のために言うが、中華のスイーツが不味いわけではない。この店のケーキが不味いのだ。発想が新しくても肝心の味が不味ければ話にならないという、当たり前の体験だった。