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冬号のお題  『デパート』

駅前の一等地にあり、“なんでも揃う”便利なデパート。ライターであり主婦でもあるPIAZZAのメンバーは、デパートをどんなふうに捉えているのでしょうか?


森 たかこ

『デパートと自転車置き場』

私は今、大阪市内に住んでいる。最寄りのデパートまで徒歩10分。
デパートに買い物に行く時は、仕事帰りや出かけたついでが多い。
だから特に意識しなかったのだけど、デパートって、デパート用の自転車置き場がそばにはない。(我が家の近所にあるデパートだけに当てはまることかもしれないけれど)
先日自転車置き場が見つからなくて困ったので、今後のためにとデパートに「自転車置き場はないのですか」と問い合わせた。
すると電話口で係の方は「ございます」と丁寧に場所を教えてくれた。デパートの一番近い出入り口からでも徒歩4、5分の場所。
重い荷物持ってそんなに歩けってこと?
しかし、ここではたと思い当たった。
80対20の法則はここでも生きているのだ。
これは、ビジネスにおいて、売上の80%は全顧客の20%が生み出し、残りの20パーセントが残り80パーセントの顧客からというもの。
たぶん自転車の客はこの後者に入るのだろう。
だって高級呉服やゴルフセット一式を買う人が自転車に乗って、前かごに鞄を突っ込んでデパートにチマチマと買い物に来るのではないでしょう。
優良顧客は外商を通じてお買い物するか、車で来てどっさり買い込んでいくか、または手に持てないほど買って宅配してもらうか……。
だから、それ以外の80%のお客様のために店からは遠くなるけど自転車置き場も作っておかなくては、って感じで作ってくれているのだろう。
まあデパートのある場所は地価が高いから、あるだけでも感謝しなくちゃいけないんだけど。

これは「自転車置き場が遠くて不便!」と、思っている私の勝手な類推。
でも結構当たっていたりして。


藤原 佳枝

『夢を売るデパート』

2009年を迎え、新聞・TVでは不況関連がトップニュースとなることが多い。消費不況もひどく、デパートの売り上げも軒並み前年比マイナスが続いている。
私が子供の頃、デパートは夢を売るところと言われ、休日にちょっとおしゃれをして出かけるようなところだった。買えなくても見て回るだけで楽しかったし、デパートの屋上にあるちっぽけな遊園地も魅力的だった。非日常を味合わせてくれるところだったといえる。
その後、スーパーやモールの台頭もあり、だんだんとデパートの特質が失われてきた。デパートにしかないものってあまりないのだ。
私自身は、実はデパート巡りが好き。上質な雑貨、家具、洋服、食品などのんびりと見て回りたい。低価格路線をいくよりも、少しだけ贅沢だったり、目新しかったりするものを扱ってもらいたい。デパートの存在意義って「何でもある」ことだと思うし、訪れた人がゆったりと快適な時間を過ごせるようにしてもらいたい。そこに生き残りの秘訣があるような気がするのだけど。年末には、案外といい年だったと振り返れることを願う。


宇都宮 雅子

『フルコースからパーツへ』

子どもの頃、休日になると家族でよくデパートに出かけた。最初は屋上の遊園地。私たち子どもを見守るのは父で、母はその間買い物に血道をあげていたのだろう、姿が見えないことが多かった。遊園地に飽きると、次はおもちゃ売り場。ここで過ごす時間はつい長くなる。最後は無理やりおもちゃから引き離され、グズグズ言いながら売り場を離れる。そういえば、妹が迷子になって大泣きしたのも、デパートのおもちゃ売り場だった。最後は地下の食品売り場だ。“デパ地下”なんて言葉はまだなかった時代。それでも、地下の食品売り場の熱気はすごかった。
こんなふうに、大人も子どももフルコース楽しめる時間を提供するのが、デパートの役割だった。
1度内部に人を吸い込んだら、めったなことでは出さないぞ、という吸引力を感じた。しかし、さまざまな形態のショッピングビルが登場するようになった今、私がデパートに求めるものも“パーツ化”している。いつもと違うおかずが食べたければ、デパ地下へ。バーゲン時期はファッションフロアへ。食事したいときは、レストランフロアへ。・・・そのときどきの用事さえすめば、あの大きなビルからさっさと出てきてしまう。
そもそもデパートは、呉服店から発祥した100年以上続く老舗企業が多い。これからの100年、デパートはどんなふうにかたちを変えて生き残っていくのだろう? 未来を予測することはむずかしいが、子どもの頃の思い出は今でも鮮明だ。