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今月のお題 「化粧」

すれ違った女性の香水のかおりに、オトナを感じて憧れた子供時代。いつしか化粧を覚えファッションに関心を抱いた学生時代。それとも、ノーメイクのナチュラル志向を貫いたか。個人的にも社会的にも化粧を取り巻く環境は、時とともに変遷しています。今回はメンバーの「化粧」ワールドを展開します。


藤原 佳枝

『秘やかな化粧』

最近、通勤電車の中で堂々と化粧をする若い女性をよく目にする。ほとんどスッピン状態から完璧に仕上げていくわけで、彼女たちのテクニックはすごい。感心する一方で、公衆の面前での化粧って恥ずかしくないのかな?という疑問もある。別に取り立てて人に迷惑をかけているわけではないし、時間を合理的に使ってると言えなくもない。だが、違和感をぬぐえない。
車中化粧をする彼女たちから見れば、周囲の人たちは自分と関係のない風景に過ぎないのかもしれない。自分の違和感をたどれば、私的な場と公共の場との意識の違いかなという気がする。マナーに難ありと言われることが多いオバサンで車中化粧をする人はほとんど見ないことから、これには世代間ギャップが大きそうだ。ある年齢以上の人にとっては化粧は私的な場でするもの。マナーや習慣は時代とともに変わっていくものだから、いつか化粧を公共の場でするのも普通になってしまうのだろうか。何となく化粧は秘やかにするのが似つかわしい気がするのだが。


伊藤 さおり

『心の中からキレイになりたい』

あなたにとって化粧とは?「仕事上のエチケット」、はたまた「これをしなきゃ人前に出られない」までさまざまだろうし、精神面での効果も多いに期待できる。そんな日々の潤いでもある化粧品だが、その陰には安全性を証明するための動物実験という現実がある。
これまで新規成分の使用に義務づけられていた動物実験は2001年4月の薬事法改正で免除されたが、実際の現場ではどうなっているのだろう。動物の悲しみの上に成り立つ美しさなんて誰も願っていないはず。けれど、化粧品には実験をしないのが当たり前という海外先進国と違って、法規制のない日本では消費者が現状を知ることは非常に困難である。実験反対の姿勢を明確にしている企業もごく少数だ。私はその中の1社を好んで使っているが、種類が限られるのでそこ以外の物も使っている。だからそれらを手にする時は、背景にあるものとキレイになりたい自分とがいつも葛藤してしまうのだ。"美"への欲求には逆らえないが、企業を動かすのは消費者であるということも考えながら。


福留 順子

『化粧は顔の服!?』

初めて化粧をしている人を見たのは、そう、小学校の高学年の頃だっただろうか。友達の家に遊びに行って、部屋をのぞくとその子の母が、入念に化粧をしていた。私の母はめったに化粧などせず、する時は慶事で出かけるときくらいだったように思う。だから、一体何処へ出かけるのだろう?と不思議だった。友に聞くと「買い物に行くから化粧をしているの」とあっさり答えてくれた。すぐ近くまで、日常の買い物をするために入念に化粧する姿に、ビックリしたことを鮮明に覚えている。
化粧に興味をもつ年頃になっても無精な私は興味を覚えず、社会人になっても化粧になじめず、女性の上司からは「病気みたいに見えるから、化粧くらいするように」と注意を受けたこともある。小説で『寝るときも夜化粧をして彼女は素顔を人には見せなかった』なんてくだりを読むと、皮膚呼吸できないじゃないとあきれたものだった。
齢を重ねた今になって、あの友達の母の行動が理解できる。今じゃ化粧なしで家の外へ出るなんて無謀こと、とてもできない。とはいえ化粧の技術もないので、化粧の前と後で、そんなに劇的に変化するわけでもない。顔色の悪さをカバーする程度なのだけれど…。今じゃ化粧が「顔の服」のようになってしまっている。


宇都宮 雅子

『業務命令』

生来のモノグサのせいか、私は化粧があまり好きではない。「化粧しないよりはした方がマシ」なので、喜びを感じる瞬間がないわけでもないが、どうもお肌によくないし、なにより朝晩の用事が増えて面倒だ。学生時代もほとんどノーメイクで通したから、小学生でもメイクする今のご時世に生まれてたら、流行遅れも甚だしい人間だったと思う。
ところが就職してすぐ、上司に云われた。「おまえは化粧をせえへんのか? 口紅ぐらい塗ったらどうや」。噂によると上司は真っ赤な口紅が好きなのだが、ジミな先輩たちには云うに云えず、「今度の新人こそ!」と私の入社で部の雰囲気が変わるのを楽しみにしていたらしい。まだセクハラという言葉も概念もない時代。OLに求められるのはこの程度のものか、と複雑な心境ながら、上司の業務命令(?)には逆らうべきではないとサラリーマン根性が働き、翌日からメイクをするようになった。
その後社会経験を経るにつれ、医師や弁護士にノーメイクまたは薄化粧の女性が多いことに気が付いた。仕事が出来さえすれば、男に媚びる必要は全くなし。そんな彼女たちを「カッコイイ」と賞賛しつつ、ノーメイクを通せなかった自分はモノグサ+長いモノに巻かれる人間だったとつくづく思う。


森 たかこ

『さすがプロ』

先日、ヘアメイクスタイリストの女性にインタビューする機会があった。きれいになるコツを聞くためである。しかし彼女は仕事のため約束の時刻に大幅に遅れるとの連絡があった。
待っている間、インタビュー担当の私とカメラの担当者が、入口から人が入ってくるたび、その人かどうかを判断しようした。私たち二人の頭の中には(少なくとも私の頭の中には)化粧ばっちりの個性的なファッションに身をつつんだ人というイメージがおぼろげながらあった。
しばらくして、別の部屋で待っていると「すみませーん」という声とともに突然その人がパッと目の前に現れた。彼女はベレー帽が個性的だったが、ファッションもきばつでなく、化粧は予想よりずっと薄かった。でも人目をひく華やかな感じはする。
なぜだろう……。お話を伺って納得した。
きれいになるためには「メイクしているけど素顔もきれいなんだろうなあ」と思わせるナチュラルメイクが大切なのだそうである。彼女は素顔がきれいと思わせるメイクをしていたのであった。