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CINEMA LIBRARY 〜は行〜
 
作品名 監督
ハ行  
バースデイ・ガール ジェズ・バターワース
ハートロッカー キャスリン・ビグロー
バーバー ジョエル・コーエン
バーレスク スティーブ・アンティン
バイオハザード ポール・アンダーソン
パイレーツ・オブ・カリビアン ゴア・ヴァービンスキー
バガー・ヴァンスの伝説 ロバート・レッドフォード
裸のマハ ピガス・ルナ
裸足の1500マイル フィリップ・ノイス
8人の女たち フランソワ・オゾン
初恋のきた道 チャン・イーモウ
バーティカル・リミット マーティン・キャンベル
パッセンジャーズ ロドリゴ・ガルシア
パニック・ルーム デビッド・フィンチャー
バニラ・スカイ キャメロン・クロウ
パーフェクト・ストーム ウォルフガング・ペーターゼン
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 アルフォンソ・キュアロン
ハリー・ポッターと賢者の石 クリス・コロンバス
ハリー・ポッターと死の秘宝 デビッド・イェーツ
ハリー・ポッターと秘密の部屋 クリス・コロンバス
パール・ハーバー マイケル・ベイ
パンズ・ラビリンス ギレルモ・デル・トロ
ハンニバル リドリー・スコット
ピアニスト ミヒャエル・ハネケ
秘密のかけら アトム・エゴヤン
127時間 ロン・ハワード
ビューティフルマインド ロン・ハワード
ヒューマン・ネイチュア ミッシェル・ゴンドリー
英雄 〜HERO〜 チャン・イーモウ
ファム・ファタール ブライアン・デ・パルマ
ブラックホーク・ダウン リドリー・スコット
Platonic Sex プラトニック・セックス 松浦雅子
フリーダ ジュリー・テイモア
プリティ・プリンセス ゲーリー・マーシャル
ブリジット・ジョーンズの日記 シャロン・マグガイア
ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月 ビーバン・キドロン
ブーリン家の姉妹 ジャスティン・チャドウィック
プルーフ・オブ・ライフ テイラー・ハックフォード
ブロークバック・マウンテン アン・リー
フロム・ヘル アレン&アルバート・ヒューズ
プロメテウス リドリー・スコット
ペイ・フォワード ミミ・レダー
北京ヴァイオリン チェン・カイコー
ベッカムに恋して グリンダ・チャーダ
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ ジョン・キャメロン・ミッチェル
ヘヴン トム・ティクバ
ボーイズ・ドント・クライ キンバリー・ピアース
ボーン・アイデンティティー ダグ・リーマン
ボーン・アルティメイタム ポール・グリーングラス
ボーン・レガシー トニー・ギルロイ
ホワイトアウト 若松節朗
ホワイト・オランダー ピーター・コズミンスキー
ポワゾン マイケル・クリストファー
ホワット・ライズ・ビニーズ ロバート・ゼメキス

「ボーン・レガシー」
監督 トニー・ギルロイ
出演 ジェレミー・レナー
    レイチェル・ワイズ
    エドワード・ノートン
(2012年/アメリカ)

マット・デイモン主演のジェイソン・ボーン・シリーズが好きだったので、この続編が作られたと知ったときは正直うれしかった。しかも、ストーリーやキャストは前シリーズをそのまま踏襲し、『ボーン・アルティメイタム』と同時進行でストーリーが進むという。しかも、監督のトニー・ギルロイは過去のボーン・シリーズ3作の脚本を担当した人物…となると見ないわけにいかない。
今シリーズの主人公はアーロン(ジェレミー・レナー)。ボーンを養成したレッドストーン計画とは別に、CIAが進めていたアウトカム計画によって生み出された超人的な身体能力を持つ暗殺者だ。極寒のアラスカで単独訓練中の彼に、理由がわからないまま命の危険が次々に迫る。計画の露見を恐れたCIA上層部が証拠隠滅を図ったのだが、薬の服用を義務付けられていたアーロンは、危険を冒してCIAの息がかかった製薬企業に侵入。そこで、計画の全容を知らないまま暗殺者の身体管理を担当していたマルタ(レイチェル・ワイズ)に出会う……

超人的なスパイ能力を持つ主人公が、なぜか組織に追われる立場になる。原因を究明する過程で美女と道連れになり、ともに逃亡するうちに互いに信頼が芽生え……という、黄金パターンは同じ。前シリーズのヒロインは、たしか失業中の一般女性だったが、今回は最先端の創薬を研究するドクター(それがレイチェル・ワイズのような美女ときている)。事件に絡むスペシャリストがヒロインという点で、よりハリウッド色が濃い感がある。さらに、アーロンの超人的な才能の原因が、薬物投入によるサイボーグ化によるものだというあたりから、お話が少々『ターミネーター』ぽくなる。
評価は分かれるだろうが、前シリーズの空気感はそのまま保っており、息もつかせぬ展開で一気に見せる面白さは健在。続編ができたら、またチェックしそうだ。
(2013・03・21 宇都宮)

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「プロメテウス」
監督 リドリー・スコット
出演 ノオミ・ラパス
    マイケル・ファスベンダー
    シャーリーズ・セロン
(2012年/アメリカ)

「人類はどこから来たのか?」――SF映画やSF小説はこの問いかけが好きだ。
あのリドリー・スコットが人類の起源をテーマにSF大作を制作したというので楽しみに観に出かけたが、ある意味期待どおりで、ある意味期待外れだった。

世界各地の古代遺跡に残る絵画から、人類の起源となる惑星を特定した考古学者のエリザベス(ノオミ・ラパス)は、2093年、調査宇宙船プロメテウスで目的の惑星に降り立つ。荒涼とした惑星に残っていたのは、巨大な遺跡。内部には知的生命体の痕跡が多数残り、エリザベスや研究スタッフたちは色めきたつが、そこは未知の危険な生命体が潜む場所でもあった……

宇宙船や古代遺跡のデザイン、ディテール、それらを処理するCGは本当に素晴らしい。とくに冒頭の宇宙船の旅の様子は『2001年宇宙の旅』のよう。ストーリーはほぼ全編、宇宙船と遺跡の中で展開するが、このあたりのディテールの造り込みはさすがだ。
しかし、「人類の起源」への答えはやや肩透かし。造物主(と、あえて呼ぼう)がなぜ人類を創り、そして滅ぼそうとするのか、理由がはっきりしない。造物主が滅んだ理由も本当に「例の怪物」だけなのか? 「あれほどの科学力を持つ知的生物が?」と思ってしまう。
人間ドラマの面では、主人公の女性考古学者のタフネスぶりが、『エイリアン』シリーズのリプリー顔負け。研究者としての夢がかなう瞬間から地獄の底へ突き落とされるシーンには胸が痛むし、極限にあってなお探求をやめないラストシーンに新鮮な驚きがある。ただし、ストーリーの鍵を握るアンドロイドの行動に、釈然としない部分が残るが。

私はなんの予備知識も持たずに観たのだが、観賞後にネットで調べたところ、この作品は『エイリアン』の番外編という位置づけらしい。観賞中も「これは『エイリアン』だな」と思わせるシーンがてんこ盛り。『2001年宇宙の旅』も、『エイリアン』も、のちのちのSF映画に残した影響が強烈過ぎて、二番煎じのSF映画を大量生産してきたが、30年以上前の自身の作品をリドリー・スコット自身も超えられないことを改めて痛感させられた。
(2012・08・29 宇都宮)

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「バーレスク」
監督 スティーブ・アンティン
出演 クリスティーナ・アギレラ
    シェール
    エリック・デイン
(2010年/アメリカ)

バーレスクとは、女性のセクシーな歌や踊りを見せるショーのこと。本作はロサンジェルスのバーレスク・クラブを舞台に、歌手として成功したい女性が夢への階段を上っていくサクセス・ストーリーだ。

歌手を夢見てロサンジェルスにやってきたアリ(クリスティーナ・アギレラ)は、偶然出会ったバーレスク・クラブのショーに魅せられる。ショーを仕切るのは往年の名ダンサーであるテス(シェール)。テスに必死の売り込みをかけるアリだが、まともに取り合ってもらえず、ウエイトレスからスタートすることに。やがて、ダンサーのひとりが遅刻してステージに穴を開け、急きょアリがステージに立つ。BGMを切られる妨害にあいながらも、アリは卓越した歌唱力で人々の心を奪う。

ショービズ界のサクセス・ストーリーを描いた映画といえば、『ショーガール』『ドリームガールズ』などが思い浮かぶ。下積みから成り上がっていくストーリーが定番で、野心、嫉妬、恋愛、努力、友情などのエピソードが描かれる。最初は周囲に認めてもらえなかった主人公が、あるときチャンスを掴み、そのチャンスを生かして実力を認めさせるパターンも同じ。
主人公のアリは純粋でフェアな人柄に描かれているが、実際にショービズ界で成功しようと思えば、ただ単に歌やダンスが上手いだけでは絶対に売れない。そんな人は他にいっぱいいるのだから。売れるためにあらゆる手練手管を使うわけで、成功とひきかえに失うものも多いだろう。

この手の映画はストーリーがありきたりなので、ショーのシーンを存分に楽しもう。歌やダンスシーンの素晴らしさは、やはりハリウッド映画。おまけにクリスティーナ・アギレラの歌唱力がスゴイので、それだけでも一見の価値あり、だ。
(2012・08・25 宇都宮)

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「127時間」
監督 ダニー・ボイル
出演 ジェームズ・フランコ
    アンバー・タンブリン
    ケイト・マーラ
(2010年/アメリカ・イギリス)

アメリカ・ユタ州の砂漠に位置する広大なブルー・ジョン・マウンテン。週末のロッククライミングを楽しんでいた若者が岩の裂け目に転落し、落石に右手を挟まれ、動けなくなる。助けを呼ぶ方法もなく、徐々に飲み水も尽きていく。命の危険に晒され続けた彼が、最後に選んだ手段とは……?

監督は『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル。のっけからスタイリッシュな映像と音楽、斬新な編集で、ひと味違ったサバイバルムービーであることを教えてくれる。
主演のジェームズ・フランコはほぼ一人芝居で究極の状況を演じ、アカデミー賞ノミネートも納得の演技だ(最終的にアカデミー主演男優賞は『英国王のスピーチ』のコリン・ファースに持っていかれたが)。若さと体力と登山スキルを謳歌する若者が陥る一瞬の事故。死の淵で彼が追い求めたのは、これまで軽視していた周囲の人々や社会とのつながりだった。なんでも自分の力でできるから、他人を必要としなかったが、人間最後の最後に望むのは人とのふれあいなのか。

実話をベースにしているためか、自然描写や刻々と衰弱していく心身の様子はリアルで、事故前の自分勝手さも事故後の大人になった姿も、ジェームズ・フランコは見事に演じている。
ただ、主人公がこれまでの人生を振り返り、繰り返し見る幻視はいかにも浅い。思い出すのは、普段振り返らなかった両親のことや、心を開くことができずに別れた恋人のこと、深くつきあおうとしなかった職場の同僚のこと。……なのだが、正直なところ、「この程度の後悔?」と思ってしまった。28年しか生きていないから、後悔も心残りもまだまだ少ないのか。
これが中高年になればどうか。ひとりの人間が秘める後悔や失敗の多さに、観る者も押しつぶされるかもしれない。考えてみれば、ダニー・ボイルが描く主人公は若者ばかりだ。『トレイン・スポッティング』しかり、『ザ・ビーチ』しかり、『スラムドッグ$ミリオネア』しかり。ぜひ一度、中高年を描いてもらいたいものだ。
(2012・06・21 宇都宮)

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「ハリー・ポッターと死の秘宝」
監督 デビッド・イェーツ
出演 ダニエル・ラドクリフ
    ルパート・グリント
    エマ・ワトソン
(2011年/アメリカ)

ハリー・ポッターシリーズがついに完結した。最終作の「死の秘宝」はPART1・2あわせて276分の長丁場。DVDで一気に観たが、まったく退屈することがなかった。2001年の第1作から10年続くシリーズの総決算にふさわしい内容だ。

7作目ともなると、もう前置きは必要ない。いきなり戦闘シーンから入り、なんとか逃げのびたハリーはロン、ハーマイオニーとともにヴォルデモート卿を倒すための分霊箱を探す旅に出る。とはいえ、今や魔法省もホグワーツ魔法学校も敵の手に落ちており、ヴォルデモート派は血眼でハリーを追っている。しかし、ハリーたちは追手を払いのけつつ分霊箱の場所を探り、ひとつひとつ破壊していくのだが……

映画が7作も続くと、おなじみのキャラクターが毎回登場する。しかし、最終決戦の場とあって、おなじみの人たちが次々に命を落としていくのがやるせない。とくに本シリーズでは、主人公3人も含めた子役の成長を現実でも物語でも同時進行で見ているので、観る者は登場人物に感情移入している度合いが強いのではないだろうか。
そんな観る者の想いはさておいて、ストーリーはどんどん進行する。「分霊箱探し」というミステリーな課題に、「3つの死の秘宝」という伝説が絡み、観る者を退屈させないのは原作の力か。この映画シリーズのいちばんいいところは、なにより原作に忠実だったこと。そして、同じキャストを10年間継続させたことだ。「現実の子役が物語に比べて成長し過ぎた」と第3作あたりでキャスト交代の噂があったが、デマで終わってよかった。他にもハリポタシリーズではネットで誤報をよく見かけたが、これも世界的な人気シリーズゆえか。

原作を読んだとき、私はラストシーンでほろりと泣けたが、映画もそうだった。長い時間をかけて関わったものには、思いもかけない感情が生まれることがある。ハリポタシリーズの出演者・スタッフも、世界中の視聴者・愛読者も、きっとそうだったのではないだろうか。
(2012・06・14 宇都宮)

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「ハートロッカー」
監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェレミー・レナー
    アンソニー・マッキー
    ブライアン・ゲラティ
(2010年/アメリカ)

2010年度アカデミー賞でジェームズ・キャメロンの『アバター』を退け、作品賞・監督賞など主要各賞を受賞した作品。イラク戦争の米軍爆発物処理班の活動をドキュメンタリータッチで描いた。
2004年、バグダッド近郊で爆発物処理を続けるブラボー中隊に、新しくウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が赴任してくる。一瞬の判断が死に至る現場で、彼は防備もつけずに爆弾に向かい、爆発物を処理していく。中隊の他のメンバーは彼に振り回されることに命の危険を感じるが……

この作品がアカデミー賞を獲得したことに、アメリカの現状が見える。
全米での評価は高いらしい。ハンディカメラを使ったドキュメンタリータッチの映像、乾いた空気感が伝わってくるヨルダンでのロケ、淡々と進むストーリー……。真摯に創作した作品なのだろう。
それにしても、なぜ多くのアメリカ人がこの映画に衝撃を受けたのか? 彼らは爆発物処理班がいちばん危険だと知らないのだろうか? 
主人公のように戦場での極限状態に陶酔し、帰国してもまた戦場に出かけてしまう人がいることは、以前から知られている。だからどうした、と思う。戦場になっているのはよその国であって、彼らの故郷ではないし、殺されているのはよその国の人々であって、彼らの家族ではない。
爆発物処理班よりもっと悲惨なのは、名もなきイラクの人々だ。アメリカの干渉など、誰も望んでいない。アメリカは勝手に人の国に侵攻し、爆発物で歓迎される羽目になり、自国の若者を死なせているだけ。世界中の人々がわかっているのに、アメリカ人だけがわかってない。そのギャップに、世界中が歯噛みしている。
(2011・02・03 宇都宮)

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「パッセンジャーズ」
監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 アン・ハサウェイ
   パトリック・ウィルソン
   クレア・デュバル
2008年/アメリカ)

この映画が公開された頃、どの映画評を読んでも、「くわしい内容をここに書けない。少しでも書くとネタバレになってしまう」とあり、興味をそそられた。実際に見てナットク。サスペンスホラーの傑作といわれる作品に似ているのだが、その作品名を書くとラストがネタバレになる。というわけで、説明するのが難しいのだが…
わずか5人の乗客だけが生き残った飛行機事故。セラピストのクレア(アン・ハサウェイ)は生き残った乗客のトラウマを取り除くことを命じられるが、乗客の証言と飛行機会社の説明にギャップがあり、事故そのものへの疑惑が広がる。やがて、クレアが接触した乗客がひとりひとり姿を消していき……
こんなふうにストーリーだけ紹介すると社会派サスペンスなのだが、実は違う。おそらくストーリーの途中で気がつく人が多いと思う。その後の設定まるごとのドンデン返しに。
監督のロドリゴ・ガルシアは「彼女を見ればわかること」「美しい人」といった作品があるので、女性の心の機微を描くのが得意な人なのだろう。本作でも透明感のある映像の中、アン・ハサウェイの心の揺れを丁寧に追っているのだが、どっちつかずの作品になってしまった。
2010213 宇都宮)

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「パンズ・ラビリンス」
監督 ギレルモ・デル・トロ
出演 イバナ・バケロ
    セルジ・ロペス
    マリベル・ベルドゥ
(2006年/メキシコ・スペイン・アメリカ)

各メディアで「これまで見たことのないファンタジー」と絶賛されていたせいか、平日の昼間にもかかわらず、映画館はほぼ満員。うわさに違わず、観終えた後のこの感触(感覚というより、感触という言葉が近い)。ハリウッド製のファンタジーとはまるで違う。確かにこれまでに見たことのない作品だ。
1944年、内戦のスペイン。大尉(セルジ・ロペス)と母が再婚し、オフェリア(イバナ・バケロ)は母とともに大尉の駐屯地に住まわされる。山間部の駐屯地は独裁国家の前線基地で、ゲリラの攻撃や虐殺が日常茶飯事。そんなある日、オフェリアは森の中に古い迷宮を発見する。そこは牧神パンが支配する、この世とは異なる世界だった。オフェリアはパンから「あなたは長く行方不明になっていた王国の姫君」と告げられ、自分の王国へ帰るための3つの試練に耐えることになる・・・
ここに描かれるファンタジー世界はハリウッド作品と違って、1度も陽光が射さない地下の王国というイメージ。パンをはじめ登場する生き物も不気味だし、気持ちがなごむことがない。幻想の国の様子やクリーチャーは確かに見たこともない世界で、“ダーク・ファンタジーの傑作”という意見ももっともだと思う。
しかし、それ以上にこの作品、現実世界の描写が秀逸だ。その証拠に、ファンタジー世界の映像時間は現実よりもかなり短い。現実世界は専制君主の大尉が支配し、大尉の子を妊娠した母は無力で、オフェリアの感受性が理解できない。そんな現実に絶望し、決して夢のようでも美しくもない幻想の世界に逃避する少女が切なくて、ラストは涙が止まらなかった。心やさしい天使にも恐ろしい怪物にもなることができる生き物、それが人間なのだ。
オフェリアを演じた12歳のイバナ・バケロが名演! 大尉役のセルジ・ロペスもうまかった。大人にはぜひ見ていただきたいが、子どもたちには残念ながらオススメできない。というのも、私も思わず目をそむけてしまうほど、残酷なシーンが多かったから。R-12指定されているのも当然だろう。逆に中学生ぐらいでこの作品を見たら、一生記憶に残るのではないだろうか。
(2007・10・14 宇都宮)

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「ブロークバック・マウンテン」
監督 アン・リー
出演 ヒース・レジャー
    ジェイク・ギレンホール
    ミシェル・ウィリアムズ
(2005年/アメリカ)

1963年アメリカ西部。夏じゅう羊を放牧し、野宿して過ごすカウボーイの仕事で出会ったジャック(ジェイク・ギレンホール)とイニス(ヒース・レジャー)。雇い主の横暴に耐えながら自然と闘い、毎日ともに過ごすうちに、2人の間に友情以上の愛が芽生える。しかし、同性愛には厳しい視線が注がれた時代。カウボーイ仕事が終わると2人は別れ、それぞれに結婚。子どもも誕生するのだが、やがて家族に隠れて会うようになり・・・
男2人の20年に及ぶ恋物語を美しい自然を背景に描き、最後はじーんと泣かせる。同性愛嗜好を隠し通さねば社会から抹殺されてしまう土地柄で、結婚し、普通に暮らしているように見えても、心はお互いのもの。やはり障害のある恋ほど燃え上がるものなんだなと再認識した。
特に、イニスの不器用な生き方が痛々しい。同性愛に対して人一倍禁忌と感じているにもかかわらず、ジャックへの想いが抑えきれない。仕事も牧場勤め以外考えられず、どんなに働いても貧乏なまま。おまけにジャックとのことで妻をうまくごまかせず、家庭も失ってしまう。
一方、ジャックは金持ち娘と結婚し、生活の不安はなくなるものの、その状態に満足できないのが人間の悲しい性。積極的にイニスを求め続けるが、不器用なイニスにはうまく応える術がない。
考えてみれば、2人が求め続けたのは、ともに静かに暮らすこと。特別金持ちになりたいわけでもなく、自然の中を馬で駆け回り、牧場暮らしができればそれでよかったわけだ。これって男女のカップルにも通じるもの。好きな仕事をして、好きな人と静かに暮らせれば、こんな幸せなことはない。大多数の人は異性がその対象になるが、ジャックとイニスはたまたま同性だったために困難な恋になった。
舞台となるブロークバック・マウンテンの大自然が美しい。しかし、そこで働くカウボーイの仕事は実に過酷だ。ベッドもお風呂もない原野で野宿生活なんて私はひと晩もムリだが、その暮らしをずっと夢見続ける人もいるのだと知った。
(2006・11・08 宇都宮)

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「秘密のかけら」
監督 アトム・エゴヤン
出演 ケヴィン・ベーコン
    コリン・ファース
    アリソン・ローマン
(2005年/カナダ・イギリス・アメリカ)

1950年代のアメリカ。人気絶頂のエンタテイナーデュオ・ラニー(ケヴィン・ベーコン)とヴィンス(コリン・ファース)が宿泊していたホテルの部屋で金髪美女の死体が発見された。事件の真相は謎に包まれ、これが原因でコンビは解散。15年後、若きジャーナリスト・カレン(アリソン・ローマン)は殺人事件の真実を探り、ラニーやヴィンスをはじめ、その周辺に取材を敢行する。しかしやがて蜘蛛の巣のような秘密の帳に取り込まれていき・・・
15年前の殺人事件の容疑者は、子どもの頃自分があこがれていたスターたち。彼らに取材する若い女性ジャーナリストの目を通して、少しずつ事件の真相が見えてくる。マフィア絡みやドラッグ、乱れた女性関係、果てはヴィンスの同性愛志向まで顔を出し、ショウビズ界の裏側を見せつける。
それにしても真相を暴いていく役どころのカレンが、いかにも若くて頼りない。ジャーナリストを名乗り、出版社や著名人を相手にするだけあって、同世代の女性と比べればやり手だが、百戦錬磨のラニーやヴィンスにしてみれば狼のもとにウサギが飛び込んできたようなもの。いくらネタがほしいからといっても、いくら相手に惹かれたからといっても、取材相手とカンタンに寝てはいけないんじゃないか? それに取材に行くのに、なぜあんな胸の開いたドレスを着ていく必要があるのか??? 若い女性の魅力を振りまけば確かに取材相手の口が割れやすいかもしれないが、それに伴う有象無象が必ず執筆のジャマになる。しかもドラッグを飲まされて、夢だか現実だかわからない世界で遊ばれてしまうんだから、どうしようもない。
それでも、物語のラストでカレンは真実を発見する。行動力はあるが、ジャーナリストとしてはお粗末な彼女が真実を手に入れたのはなぜ? そして、それが公表できないものであるのもお約束。
セクシーで、フシギな雰囲気に満ちていて、映画としては面白い。ただ、推理サスペンスを期待しない方がいい。
コリン・ファースが今までとは違った役どころに挑戦しており、コアなファンには少々ショックかも。アリソン・ローマンは体当たりの熱演。「ホワイト・オランダー」のイメージが強かったので、大人の女の演技にちょっと驚いた。
(2006・08・21 宇都宮)

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「ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月」
監督 ビーバン・キドロン
出演 レニー・ゼルウィガー
    ヒュー・グラント
    コリン・ファース
(2004年/アメリカ)

あのヒット作「ブリジット・ジョーンズの日記」がキャストもストーリーもそのままに復活した。
物語は前作から6週間と4日後からはじまる。ブリジット・ジョーンズ(レニー・ゼルウィガー)は恋人の弁護士マーク(コリン・ファース)とラブラブの毎日。ところが、ひょんなことからマークの浮気を疑い、2人はケンカ別れ。そこにTVレポーターに転職した昔の恋人ダニエル(ヒュー・グラント)が現れ、タイ長期ロケに同行することになり・・・
「恋は邪魔者」でナイス・バディーを披露していたレニー・ゼルウィガーがここでも女優根性を発揮し、10kg以上は太って(あくまでも推定だが)しっかり役づくりしている。ブリジットは相変わらずキュートでオッチョコチョイで好感度大。コリン・ファースもヒュー・グラントも期待を裏切らない役どころで、いわばお約束どおり。
そのためか、なにも起きない平穏な日常にあえて波風を立たせてみたような、わざとらしさがストーリー全体に付きまとう。ダニエルがTVリポーターに転職すること自体があり得ない設定に思えるのだが・・・
セリフに含まれるウィットも前作を超えることはなく、全体に平凡な出来だった。前作は20代30代の女性にすすめると好評だったので、ちょっと残念だ。
(2006・01・08 宇都宮)

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「ホワイト・オランダー」
監督 ピーター・コズミンスキー
出演 ミシェル・ファイファー
    レニー・ゼルウィガー
    アリソン・ローマン
(2002年/アメリカ)

15歳のアストリッド(アリソン・ローマン)は美しい母イングリッド(ミシェル・ファイファー)と2人暮らし。ところが、イングリッドが恋人殺しの容疑で服役し、アストリッドは里親のもとを転々とすることに。1人目の里親はオトコに入れあげてばかりの中年女。2人目は売れない女優。3人目は里子たちに酒やドラッグを教える。そんな中でも新しい環境に慣れ、大人になっていく娘を見て、イングリッドは「他人を信じちゃダメ。私だけを信頼して」と自分につなぎとめようとするが・・・
後味があまりよくないドラマだ。
美しく、男性にモテる母。美しさを受け継いだものの、母に対するコンプレックスや依存心が抜けない娘。そのままなら共依存の関係が続いていったのだろうが、母の犯罪で母子が無理やり引き裂かれたところから、娘の成長物語になる。
里親の個性もそれぞれ強烈だ。「こんなところでマトモな子どもが育つのか?」と、たまらない気持ちになるが、子どもはたくましい。それなりに居場所を見つけ、新しい環境に懸命に馴染もうとする。それだけに、娘の足を引っ張る母親の言動が許せない。自分は育児放棄をしながら、いざ子どもが離れようとすると、どうにかして自分の影響下に置こうとするのは、洋の東西を問わず同じらしい。
ミシェル・ファイファーは相変わらずキレイで、家庭的でない女がよく似合う。レニー・ゼルウィガーは意外な役どころで登場し、個性を発揮していた。しかし、この映画の主役はなんといっても娘役のアリソン・ローマン。堂々とした演じっぷりで、ラストまで飽きさせなかった。
(2005・05・23 宇都宮)

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「フリーダ」
監督 ジュリー・テイモア
出演 サルマ・ハエック
    アルフレッド・モリーナ
    ジェフリー・ラッシュ
(2002年/アメリカ)

メキシコの女流画家フリーダ・カーロの生涯を、メキシコ人女優サルマ・ハエックが演じた話題作。
快活で自由奔放な少女フリーダ(サルマ・ハエック)は、学生時代にバス事故で全身に大怪我を負い、数年間に渡る闘病生活を送る。壮絶な努力の末にようやく歩けるようになった彼女は、絶望の中で描いた自画像を壁画家のディエゴ・リベラ(アルフレッド・モリーナ)のもとに持ち込み、画家としての才能があるかどうかを問う。ディエゴは芸術家仲間に彼女を引き入れ、ともに政治運動に参加。やがて2人は結婚するが、それはサルマにとってディエゴの浮気癖に苦しめられるスタートでもあった・・・
フリーダ・カーロの絵画を少し見たことがあるが、技術的にはさほど上手くないと感じた。しかし、絵画全体から見る者に迫ってくるあの情念、あのパワーは一体なんなのか。絵画にも登場する夫・ディエゴは、彼女の人生に絡みつき、離れようにも離れられない運命的な相手。彼女を画家として世に送り出してくれた人物だが、病的な浮気性で新婚早々からフリーダは夫の浮気に悩むことになる。また、絵画には胎児も描かれているが、これは事故で子どもを産めないからだになったはずの彼女が奇跡的に妊娠し、結局流産してしまった" この手に抱けなかった子ども"。ホルマリン漬けの胎児をスケッチするシーンでは、その強さ・感情の激しさに畏れすら感じた。
心に響いたのは、要所要所で挟まれるフリーダの言葉。
「私は人生で2つの大きな事故に見舞われた。ひとつはバス事故。もうひとつはディエゴ」
「私が死んだら焼いてちょうだい。もうこれ以上横になっていたくないから」
フリーダの苦痛とは比較にならないが、私も腰痛がひどいときは「痛みのないからだがどんなものだったのか、もう忘れた」状態になる。だから、死んでまで横になっていたくない気持ちはよくわかる。もうひとつの事故=浮気性の夫を持ったことは功罪相半ばする事実。ディエゴあってこそのフリーダだし、浮気癖もわかっていて結婚したはず。ディエゴではなく、普通の男性と結婚していたら画家として世に出たかどうかは疑問だし、なによりあんなに刺激的な人生は送れなかった。よくも悪くもディエゴしかあり得ない・・・そうとしか言いようがない夫婦関係だ。
女性の生き方、芸術への情熱など、いろいろ考えさえられることの多い作品だ。若い人から年配の方まで、広い世代の女性にぜひ観ていただきたい。
(2004・10・17 宇都宮)

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「北京ヴァイオリン」
監督 チェン・カイコー
出演 タン・ユン
    リウ・ペイチー
    チェン・ホン
(2003年/中国)

チェン・カイコー監督といえば「さらばわが愛/覇王別姫」、そしてハリウッド進出後の「キリング・ミー・ソフトリー」が脳裏に浮かぶ。その彼がホームグラウンドに戻り、中国という文化の中で中国人を描いた。それだけでハリウッドにはない人間くささや生活感が感じられ、のびのびとした開放感すら感じさせる。
息子チュン(タン・ユン)のヴァイオリンの才能を信じ、全財産を処分して田舎町から北京に出てきたコックのリウ(リウ・ペイチー)。なんとか名門の北京中央音楽学院に入学させ、世界に通じるヴァイオリニストにしようと、大都会の片隅で父と子の奮闘が始まる。父と子を巡る人間関係に登場するのは、しがない音楽教師と、男たちを手玉に取るようでいて実は恋に傷つく美女。やがて父は世界的に有名なヴァイオリニストを育てた音楽教授に息子を売り込み、成功への足がかりを手に入れる。ところが息子は父に反発し・・・
改革開放が進む中国で、音楽家への立志伝もここまで来たかと思った。息子の才能に惚れ込み、一流のヴァイオリニストに育てることに人生を捧げる父。似たような話は日本でも聞いたことがあるが、実際に成功する人は少ないことだろう。しかも、成功すれば音楽に専門知識のない父は微妙な立場になる。
期待を一身に背負い、揺れ動く息子を演じたタン・ユンが初々しい。彼自身も北京中央音楽学院に所属する学生だという。どおりでヴァイオリンを弾く姿がサマになっていた。しかし、この作品の最大のテーマは父親が息子に注ぐ無償の愛だ。ときにぶつかり合いながらも、息子を一流のヴァイオリニストにするという目標に揺るぎのなかった父に感動した。実は物語の中核である父子の関係に意外な真実が隠れているのだが、残念なことにこれは消化不良気味に終わっていた。
ラストの北京駅でのシーンが泣ける。それにしても、父親役のリウ・ペイチーがどうも吉本新喜劇の石田靖さんとカブって見えたのは私だけだろうか?
(2004・7・3 宇都宮)

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「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」
監督 アルフォンソ・キュアロン
出演 ダニエル・ラドクリフ
    ルパート・グリント
    エマ・ワトソン
(2004年/アメリカ)

実は、ハリー・ポッターの新作には心密かに期待していた。理由は3つある。1つ目の理由は、これまでに刊行された原作シリーズ4作の中で私がいちばん好きな作品だということ。いつも以上に伏線の張りめぐらせ方の気が利いていて、後半のどんでん返しも秀逸なのだ。2つ目は監督が交代したこと。前2作の監督クリス・コロンバスはどうもイマイチだった。「原作に忠実に」というルールがあるのはわかるのだが、ストーリー全体が盛り上がりに欠け、平板な印象が拭えない。3つ目に、シリウス・ブラック役があのゲイリー・オールドマンというではないか! 悪役のイメージが強いからまさにハマリ役。ゲイリーが一体どんな悪役を見せてくれるかワクワクする。そんなこんなで期待しつつ見たのだが・・・
見終えて、シリーズではいちばんの出来だと感じた。
ストーリーはあらかじめわかっているのだが、やっぱり面白い。ルーピン教授とシリウス・ブラックという新たな登場人物がいいし、ハリーの両親の死を巡る謎が少しずつ明らかになっていくのも楽しみだ。
また主役の3人の子役が少しずつオトナになり、演技も安定してきた。第1作の「ハリー・ポッターと賢者の石」が先日テレビ放映されていたが、それと比べても妙な間がなくなり、受け答えが自然になってきた。彼らを取り巻く脇役に名優を揃えたのも全体を引き締めている。占い教師役のエマ・トンプソンの演技が特にブッ飛んでいて笑えた。
お目当てのゲイリー・オールドマンはやや抑え目の演技だったが、やっぱりいい。小柄なのにあの存在感。シリウス・ブラックは今後もシリーズに登場するだろうから、またゲイリーに会えることだろう。
ハリポタに限らず、子役が登場するシリーズというのは、その成長が楽しみのひとつ。まるで久々に会う親戚の子どもたちのように、「よしよし、大きくなったな」と話しかけたくなる。ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人もそれぞれ成長し、ハリー役のダニエル・ラドクリフ君は期待に違わぬ美形になりそう。同じように、ドラコ・マルフォイ役の金髪の男の子も成長したし、ネビル・ロングボトム役はなんと子役の中でいちばん背が高くなっていた。原作のネビルは小柄なイメージがあるのだが。
9月には原作シリーズの第5作「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」も発売される。しばらくはハリー・ポッターの原作と映画を毎年交互に楽しめそうだ。
(2004・7・3 宇都宮)

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「ヘヴン」
監督 トム・ティクヴァ
出演 ケイト・ブランシェット
    ジョヴァンニ・リビージ
(2002年/アメリカ・ドイツ・イギリス・フランス)

不思議な作品だ。地味なテーマなのに、心に残るストーリーと映像。ラストシーンの空の青さが、見終えた後もいつまでも脳裏に焼きつく。ラストシーンの続きは観客それぞれの心の中で描いていくものとわかっていても、続きが見たい。そんな映画だ。
舞台はイタリアのトリノ。英語教師のフィリッパ(ケイト・ブランシェット)は夫を死に追いやり、生徒たちを麻薬漬けにする男を暗殺しようと爆弾をしかけたが失敗。爆弾は罪のない4人の人々を殺し、麻薬の元締めを殺すことはできなかった。警察での取り調べ中、その事実を知ったフィリッパを支えたのは、若き刑務官のフィリッポ(ジョヴァンニ・リビージ)。彼はフィリッパに恋をし、すべてを捨てて彼女との逃避行へ走る・・・
麻薬元締めという裏の顔を持つ実業家は明らかに警察と癒着しており、正義感に燃えるフィリッパがいくら捜査嘆願書を提出しても警察は動こうとしない。やむにやまれず強硬手段に出た彼女に、運は味方しなかった。人を思いやる心を持つ彼女にとって、罪もない市民を4人も殺してしまった事実はどれほど辛く身体を貫くことだろう。このあたりのC・ブランシェットの演技も見どころのひとつだ。
刑務官としてのスタートを切ったばかりの若いフィリッポが彼女に恋してしまう過程も、セリフはほとんどないのだが2人の表情がいい。彼が前途洋洋たるキャリアを捨て、彼女の逃亡を手引きし、トスカーナ地方へと逃避行する下りはあくまでも切ない。トスカーナの風景の美しさも切ないし、彼らを取り巻く人々の優しさも切ない。" 逃避行"というのは、大概失敗するもの。どんどん狭められていく包囲網に、「逃げて! 逃げて!」と声を発したくなる衝動にかられた観客が多いのではないだろうか。
監督はあの「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ。どおりでカメラワークが非凡なはずだ。脚本はポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキの遺稿だとか。この脚本を読む込み、映像に表現するのはなかなかの難行だったろう。
(2004・3・18 宇都宮)

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「英雄 〜HERO〜」
監督 チャン・イーモウ
出演 ジェット・リー
    マギー・チャン
    トニー・レオン
(2002年/中国)

「あの子を探して」「初恋のきた道」の名匠チャン・イーモウが、人・モノ・金を惜しみなく注ぎ込んで創り上げた大作。
天下統一を目の前にした秦の始皇帝は、数多くの暗殺者にその命を狙われていた。中でも凄腕としてその名を轟かす3人の剣客を1人の若者が打ち倒し、始皇帝に拝謁を許された。たった1人で3人の暗殺者を殺したいきさつを尋ねた始皇帝に、若者は長い物語を語り始める・・・
まず目を奪うのはその映像の美しさだ。複数のエピソードを赤・青・黄・白に染め抜いた衣装で区別し、マーシャルアーツの動きに合わせて色が乱舞する様はため息が出るほど美しい(ちなみに、衣装担当はワダ・エミさん)。エピソードを色分けする手法はソダーバーグ監督の得意技だが、美しさではこの作品の圧倒的勝利。同じ登場人物が何度も違うエピソードに登場するため、見る人の頭を混乱させないためにも色分けは効果的だった。ややバトルゲームっぽくはなったが、寺や砂漠、森など背景にバリエーションを持たせた点もよかった。
ストーリーについては、ハリウッド映画を見慣れた人はやや戸惑うかもしれない。あくまでも勝利すること、生き残ることを強調するハリウッド映画に比べて、「英雄」では勝利よりも己の身を犠牲にして理想を追求することが尊ばれる。私は「これぞ東洋!」と中国人と日本人の価値観の近さを堪能したが、西洋人には理解できない思考回路ではないだろうか。しかもこの価値観がストーリーの最も重要な部分を貫いているのだから、理解できないとストーリー展開にもついていけない。このあたり、西洋の人にぜひ感想を伺いたいものだ。
改めて「スゴイ!」と思ったのはロケ地の多彩さ。始皇帝の宮殿に北京の故宮を使って大規模ロケを行い、奇岩だらけの砂漠で剣客同士の決闘シーンを撮影した。時代考証も場所設定もおかしいが、事実をもとにした物語ではないことだし、細かいことは言いっこなし。
最後に役者について云わせていただくと、主役のジェット・リーよりトニー・レオンとマギー・チャンがいい。この2人、なんて色っぽい組み合わせなんだろうと、画面を見ながらドキドキしっぱなしだった。
(2004・2・20 宇都宮)

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「ファム・ファタール」
監督 ブライアン・デ・パルマ
出演 アントニオ・バンデラス
     レベッカ・ローミン=ステイモス
(2002年/アメリカ)

カンヌ映画祭の会場で、数億円のダイヤがある女によって盗まれた。女のせいで7年間の刑務所暮らしを送る羽目になった共犯者の男は、復讐の鬼となって彼女をつけ狙う。名前を変え、経歴を隠してアメリカで過ごした後、その女はアメリカ大使夫人となってパリに戻ってきた・・・
スーパーモデルのレベッカ・ローミン=ステイモスが抜群のプロポーションとファッショナブルな衣装で悪女を演じる。男はほとんど彼女の虜となり、利用されるのだが、その過程が面白い。パパラッチ役のアントニオ・バンデラスがその最たるもの。ただし、バンデラスクラスになると翻弄されるだけで終わるわけにはいかないようだが。
監督がブライアン・デ・パルマなので、あちこちに伏線を仕込んでいるのではないかと推測できるのだが、残念ながら私の眼力では完全には見抜けなかった。特に後半、思いもよらない方向に話が進むので、このあたりの把握がポイントだ。同じシーンが2度登場するので、1回目と2回目の違いを確認するといいかもしれない。
それにしても小ズルイ女なら私のまわりにもいるが、ここまでの悪女にはなかなかお目にかかれたものじゃない。アタマの回転が速くて行動力・演技力があり、順応性も高い美女。これだけ揃えばなにも悪いことをしなくても人生で成功しそうなものだが、いい人より悪女の方が女の目から見ても魅力的なのだから始末が悪い。それにしても、男ってホントにバカばっかり・・・この作品を見ている限り、そう思える。
(2004・1・23 宇都宮)

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「パイレーツ・オブ・カリビアン」
監督 ゴア・ヴァービンスキー
出演 ジョニー・デップ
     オーランド・ブルーム
     ジェフリー・ラッシュ
(2003年/アメリカ)

ディズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」をモチーフに、ディズニー映画が制作した海洋アドベンチャー。「海賊ものは成功しない」と言われるらしいが、退屈することなく大人も子どもも楽しめる作品だ。
海賊が横行するカリブ海の港町ポートロイヤル。領事の娘エリザベス(キーラ・ナイトレイ)は、子どもの頃ウィル(オーランド・ブルーム)から受け取った金のメダルを大切に持っていた。そんなある日、ポートロイヤルは海賊バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)に襲われる。バルボッサのめざすものはただひとつ、エリザベスが持つ金のメダルだった・・・
金のメダルは一体なんなのか。なぜウィルが金のメダルを持っていたのか――これが作品全体を貫く謎になっている。
ストーリーは途中からホラーじみてくるが、荒唐無稽な展開もディズニーランドのノリで流した方がいい。なんとなく違和感を覚えるのは、主人公の海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)の位置づけ。味方なのか敵なのか、強いのか弱いのか、そもそも正体がわからないのにウィルが手助けを頼むのも不自然だ。ジョニー・デップの演技力があってこそ、2時間強の長尺にもスパロウ船長のキャラが持ちこたえたのだと思う。J・デップ自身はこの役柄をとても楽しんで演じているように見えた。
ジェフリー・ラッシュはなにをやらせても上手いし、悪役は演技上手でないといけないと改めて思い知らされる。オーランド・ブルームは「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラス役の印象が強いが、ブルネットの彼も金髪のときとはまた違った美形ぶりだ。「ベッカムに恋して」「スター・ウォーズ エピソード2」に出演後、大役を得たキーラ・ナイトレイはウィノナ・ライダーを思わせる美貌で、今後が楽しみだ。
(2004・1・23 宇都宮)

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「8人の女たち」
監督 フランソワ・オゾン
出演 カトリーヌ・ドヌーブ
     エマニュエル・ベアール
     ファニー・アルダン
(2002年/フランス)

大雪の朝、片田舎の屋敷で主人が死体で発見された。屋敷の住人は、主人の妻(カトリーヌ・ドヌーブ)、オールドミスの妹(イザベル・ユペール)、その母(ダニエル・ダリュー)、高校生の次女(リュディヴィーヌ・サニエ)、2人の家政婦(エマニュエル・ベアール、フィルミーヌ・リシャール)。そこに長女(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が帰省し、おまけに主人の生き別れの妹(ファニー・アルダン)まで登場する。彼女ら8人の女たちが犯人探しをするうちに、一家の秘密がだんだん暴露され・・・
まずは豪華女優陣に、「こんなキャスティングが可能なのか?」と圧倒される。もとは舞台劇だったのか、屋敷の1階リビングに場を固定した古びたつくりの作品。しかもミュージカル仕立てとあって、劇中8人の女優が1人ずつ歌を披露する。ようやく作品のテイストに慣れたところで、ストーリーがどんどん面白さを増していく。「そんなのアリ?」と思う点も多々あるが、劇場でお芝居を見る感覚で楽しめる映画だ。
女優陣の演技合戦も見せ場のひとつだが、イザベル・ユペールがやっぱりウマイ。「ピアニスト」の演技もそうだったが、作品ごとに別人になりおおせ、観る者を楽しませてくれる。存在感があったのはファニー・アルダン。なぜフランス女性はああも粋なのかと感服。エマニュエル・ベアールは相変わらず小悪魔の魅力で男をたぶらかす役どころがピッタリ。もう30代後半のはずだが、年をとっていないのが不思議。そういえばイザベル・アジャーニもそうだったが、フランスの女優は年をとらない。なにか秘訣でもあるのか。(思うに、老け始めの頃、一旦スクリーンから姿を消し、カトリーヌ・ドヌーブぐらい熟れてから再び映画出演を始めるためか?)
それにしてもこれだけの女性パワーに囲まれる男性は、この屋敷の主人でなくても早死にしそう。主人役の男優が最後まで顔を出さなかったのも大正解だ。
(2003・12・31 宇都宮)

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「ベッカムに恋して」
監督 グリンダ・チャーダ
出演 バーミンダ・ナーグラ
     キーラ・ナイトレイ
     ジョナサン・リース・マイヤーズ
(2002年/イギリス)

ジャス(バーミンダ・ナーグラ)はサッカーが大好きなインド系イギリス人の女の子。町で男の子相手にストリートサッカーをするうちに、地元の女子サッカーチームから誘いがかかった。好きなサッカーを思う存分やりたいジャスだが、伝統的なインドの慣習を重んじる両親は「女の子がサッカーなんて」と拒否感を募らせ・・・
タイトルは「ベッカムに恋して」だが、当然ながらベッカムはテレビ映像でしか出てこない。予想どおり主人公の憧れの選手がベッカムなわけだが、10代の女の子がベッカムファンと言えばミーハーにしか解釈してもらえないのは日本もイギリスも同じらしい。
面白いのは、主人公がインド系という設定。イギリス人と同じように学校に通い、サッカーに興じる一方で、伝統的なインド料理を覚えさせられ、行事ともなればサリーを着る。お父さんはターバンを巻いているし、お母さんは「女の子は学校を出たら嫁に行くもの」と決めつけ、結婚相手は親の意見が大きくモノを云う。作品中でジャスも恋に落ちるが、インド系以外の男性との恋愛は本来ご法度のようだ。
全体に爽やかでほんわか気分にさせる作品だが、女子サッカーの描き方がちょっと甘いのでは。特にサッカーシーンはつらい。今年開催された女子ワールドカップでは、女子でも男子並みのシュートシーンが見られた。役者さん的には大変だろうが、クライマックスの試合シーンはもう少し本格的なサッカーが見たい。(CGを使えばそれもできるのだろうが、敢えて使わなかった姿勢は評価したい。ひょっとして予算がなかった?)
また、主人公の恋愛もスムーズに運び過ぎ。恋もサッカーも成功するとなると、ちょっと話が上手すぎる。特に、ライバル役のキーラ・ナイトレイが誰が見ても美人なだけに苦しい。
(2003・12・30 宇都宮)

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「裸足の1500マイル」
監督 フィリップ・ノイス
出演 エヴァーリン・サンビ
     ローラ・モナガン
     ケネス・プラナー
(2002年/オーストラリア)

1931年のオーストラリア西部。当時、オーストラリア政府は先住民アボリジニと白人との混血児を隔離し、白人に同化させるための"保護"政策を行っていた。 アボリジニの母と白人の父との間に生まれた14歳の少女モリーは、妹と従妹とともに、先住民対策局の手に捕らえられ、故郷から遠く離れた収容所に入れられる。「母さんのもとに帰りたい」――その一念でモリーたち3人は90日間1500マイルの砂漠を歩いて故郷をめざすが・・・ 裸で狩猟生活を営むアボリジニが“野蛮”で、ナイフとフォークで食事をする白人は“文化的”。世の中全体のその恐ろしい思い込みを体現した、ムーアリバー収容所の光景がうそ寒い。1500マイルとひとことで云っても、東京〜サイパン間の距離に相当するらしい。飛行機で3時間半かかる距離を、追っ手から逃れながら、食料も持たずに歩き通したその意思の強固さ・家族への思いの強さに泣けた。 親から引き離された少女たちは故郷に戻ることもなく、親とも二度と会えなかったという。親子という強い絆を引き裂いて、無理やり白人の慣習を押し付けることのどこが“文化的”なのか。収容所で従順に“学んだ”ところで、混血少女たちの行く末は決して明るくない。作品中でも描かれていたように、白人家庭の家政婦になり、本人の意思に反して主人の情婦にされるのが典型だったのかもしれない。
こんな“非文化的”で“野蛮”な混血児隔離政策が1960年代まで行われていたというのだから、オーストラリアという国が恐ろしくなる。ゴールドコーストやシドニーの観光名所ではわからない暗部があるのだと、映画が残酷なまでに教えてくれた。
これからオーストラリアに行く人、お子さんのいる人にぜひ見てもらいたい作品だ。
(2003・12・8 宇都宮)

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「ボーン・アイデンティティー」
監督 ダグ・リーマン
出演 マット・デイモン
    フランカ・ボテンテ
(2003年/アメリカ)

嵐の地中海である男が漁船に拾われた。背中に銃弾を受け、尻にはスイスの銀行の隠し口座ナンバーを秘めたカプセルを埋め込まれた男は語学も堪能。しかし、自分が何者かの記憶だけがない。自らの手がかりを求めて訪れた銀行の隠し口座には、ジェイソン・ボーン名義の山ほどのパスポートと一生食べていけるだけの現金があった。しかし、銀行を出た彼はなぜか命を狙う男たちにつけ狙われ・・・
自分が何者かは全く覚えていないが、人間兵器として養成されたワザと知識は身体に染み付いている。武装警官に襲われようが殺し屋に襲われようが、身体が自然に反応して相手を倒す。・・・そんなCIAエージェントをマット・デイモンが演じて、かなりカッコよかった。格闘技や拳銃扱いの鍛錬をみっちり積んで撮影に臨み、用意したスタントマンも使わずに全てのアクションシーンを演じきったらしい。決してハンサムとはいえないルックスだが、それだけに妙に親近感があって、つい作品を観てしまう役者さんだ。
ストーリーは自らのアイデンティティーを求めるボーンと、ボーンを消そうとするCIAの動きが同時進行で展開され、少なくとも観る者にはボーンが腕利きのCIAエージェントでアフリカ某国の独裁者がらみの任務に失敗したことがわかる。次々と襲いかかってくるかつての味方から、果たして逃げ切れるのか。偶然にも行動をともにすることになった女性とのロマンスは成就するのか。最後までハラハラさせながら見せてくれ、アクション映画としてもスパイ映画としても満足度が高い作品だ。
それにしてもスパイなんてロクな商売じゃない。プライバシーはないし、孤独だし、「記憶をなくした」と言っても誰も信じてくれない。ボーンほど目端の利く男なら、どこでなにをやっても食べていけるのだから、世界のどこかで静かに暮らさせてあげたい・・・そう願わずにはいられないスパイ像だった。マット・デイモンを起用した理由は、ひょっとしたらこのあたりにあるのかもしれない。
(2003・8・7 宇都宮)

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「ハリー・ポッターと秘密の部屋」
監督 クリス・コロンバス
出演 ダニエル・ラドクリフ
    ルパート・グリント
    エマ・ワトソン
(2002年/アメリカ)

ハリー・ポッター第2弾を見た。
第1弾に引き続き、原作に忠実。あの膨大な原作に忠実にしようと思うと、当然2時間41分という長尺になる。次から次へとストーリーが進み退屈することはなかったが、果たして原作を読んでいない人に理解できるのか。第1弾のときの疑問が今回も脳裏をよぎった。
今作の見どころは、ハリーたちが秘密の部屋の謎をどうやって解くか。50年間開かれなかった部屋を見つけるまでの過程に、トム・リドルの日記やハグリッドと巨大蜘蛛アラゴグの関係、蛇の言葉がわかるハリーの能力など、全編に渡って伏線が張り巡らされている。ロンの妹ジニーやハリーを崇拝する下級生など、映画ではほんの一瞬しか登場しない脇役が重要な役割を果たすのも、映画オンリー派には大変だ。
長いシリーズ物を映画化する場合、第1弾は舞台設定や登場人物の紹介に時間を多く割かねばならず、どうしても説明調になってしまう嫌いがある。ましてハリー・ポッターの場合子役を多く使うので、その演技力の問題もあるだろう。にしても、第1弾に続き第2弾もどうも全般に盛り上がりに欠けるのは、やはり監督の腕のせい? 
「なにを言う。あれだけ大ヒットした映画はそうそうないぞ」と言われそうだが、原作のファンが映画館に足を運んだ故のヒットではないか。そして原作ファンというものは、映像が原作に忠実に再現されていれば、それなりに満足してしまうものだ。だって、ハリー・ポッターの面白さは原作で十二分に堪能済みだから。
ところで、ダニエル・ラドクリフ君を中心とした子役たちは次回作が見納めらしい。現実の人間の成長に映画の製作が追いつかないため、第4弾以降は子役が総入れ替えになるんだとか。確かに第1弾に比べると、みな本当に成長している。ハリーやハーマイオニーがどんな美形に育つかは今後の楽しみだが、第4弾以降の子役選びはさぞ大変だろうと今から心配してしまう。
(2003・6・27 宇都宮)

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「バースデイ・ガール」
監督 ジェズ・バターワース
出演 ニコール・キッドマン
    ベン・チャップリン
    ヴァンサン・カッセル
(2002年/アメリカ)

アカデミー賞もゲットし、今や押しも押されぬ大女優となったニコール・キッドマンが、インターネットで結婚相手にあてがわれるロシア人妻を演じるーーその設定を面白く感じ、早速観てみたが・・・
イギリスの田舎町に住む銀行マン・ジョンには女性と出会う機会がない。ロシア人女性との結婚を仲介するインターネットサイトに興味を惹かれ、ナディアという女性をイギリスに迎えるが、予想に反して彼女は英語が全く話せない。ロシアに送り返そうと一時は考えたものの、結局彼女の肉体の魅力に溺れてしまい、言葉が通じないまま同棲生活に。やがてナディアの幼馴染と称するロシア人2人組の登場で、平穏に見えた日々が一転する。
ロシア人の男2人が突然やってくるあたりからは予想どおりの展開。典型的な美人局パターンである。あまりにも典型的なので、ひっかかるジョンがバカに見えてしまう。人が好いのはわかるのだが、そんなんで銀行マンが勤まるのか?とツッコミのひとつも入れたくなった。
ヤクザなロシア男を演じたヴァンサン・カッセルも、この役どころではいかにももったいない。ロシア語の演技しかないし、単なるDV男にしか見えず、彼のセクシーさが活きていない。
ただ、ラストは予想外の結末だった。「そんなのあり得ないでしょ」と言いたくなるが(税関にお勤めの方にぜひご意見を伺いたい)、あのままではジョンがあまりにも気の毒なので、少し救われた気分だ。
(2003・5・7 宇都宮)

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「プリティ・プリンセス」
監督 ゲーリー・マーシャル
出演 アン・ハサウェイ
    ジュリー・アンドリュース
(2002年/アメリカ)

サンフランシスコで母と暮らすミアは内気で地味な女の子。ところがある日、死んだ父がヨーロッパのジェノヴィア王国の皇太子だったと知らされる。突然目の前に現れた祖母の現女王から、後継ぎの王女として新たな人生を踏み出すよう促されるが・・・
少女マンガの王道(しかも30年前の)を行くようなストーリーで、夢があるにもほどがある!とツッコミたくなるが、ディズニー映画とくれば、それはそれでしかたがない。監督のゲーリー・マーシャルは「プリティ・ウーマン」「プリティ・ブライド」と女性の夢を描きつづけてきた人。それにしても前2作と比べても、「フツーの女の子が実は未来の女王さまだった」という設定は、どうにも現実感をつけるのが難しい。アメリカの中では比較的ロマンチックな町並みのサンフランシスコを舞台に選んだのも苦肉の策か?(これがニューヨークなら全然違った話になる)
サナギが蝶になるように、サエない女の子が美しく生まれ変わる設定のアン・ハサウェイ(最近LUXのCMでよく見かける)も、日本人の目から見ると美人なのかそうでないのかビミョーな線だ。少なくとも王女様には見えない。
女子中高生が楽しむには手ごろな作品だが、ヒネたオバサンの観る映画ではなかった。
(2003・4・11 宇都宮)

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「バイオハザード」
監督 ポール・アンダーソン
出演 ミラ・ジョヴォビッチ
    ミシェル・ロドリゲス
    エリック・メビウス
(2002年/アメリカ)

私はゲームをしない。だから、「バイオハザード」の内容も全く知らないし、予備知識もまるでない。しかし、この映画は楽しめた。記憶を消された特殊工作員が迫り来るゾンビとひたすら闘い続ける単純なストーリーだが、最後までハラハラドキドキさせてくれる。
大企業アンブレラ社の地下にある秘密研究所ハイブでは、未知の殺人ウィルスが開発中だった。ところがウィルスが何者かの手によって空気中に散布され、ハイブは閉鎖。中に閉じ込められた数百人の従業員はウィルスに感染し、ゾンビになり果てる。一方、ハイブの入り口の番人として任務についていたアリスは、なぜか記憶をなくした状態で発見され、特殊部隊とともにハイブへと乗り込むが・・・
誰が味方で誰が裏切り者か、ストーリーはすぐ読める。しかし、地下の秘密基地、人を支配しようとするコンピュータ、二重三重の防護システム、次から次へと現れるゾンビと、SFホラーに欠かせない小道具が効いている。これだけのイマジネーションを生み出すもととなった日本のゲーム文化は全くたいしたものだと思う。
作品全体の出来がよかったのは、主演のミラ・ジョヴォビッチに負うところが大きいと感じた。「フィフス・エレメント」では可憐な少女、「ジャンヌ・ダルク」では戦う女を演じ、作品ごとに違う顔を見せてくれたが、大人の女なのにどこか少女の面影があるのが魅力的だ。「バイオハザード」の映画化を知り、自ら売り込みに行ったそうだが、確かにハマリ役だった。
(2003・4・1 宇都宮)

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「バーバー」
監督 ジョエル・コーエン
出演 ビリー・ボブ・ソーントン
    フランシス・マクドーマンド
(2002年/アメリカ)

兄弟で製作・監督・脚本を担当し、映画を世に送り続けるジョエル&イーサン・コーエンの最新作。「ファーゴ」に似たテイストの、静かな静かなサスペンスだ。
妻の兄が経営する小さな町の床屋に勤めるエドは、平凡で無口な男。妻のドリスはデパートの帳簿係で、上司と不倫中だ。これといった夢も楽しみもなく、このまま人生を終えるのかとボンヤリ考えているエドの前に、1万ドルで新事業に出資する話が舞い込む。妻の不倫相手を恐喝することで1万ドルを手に入れたエドだが、新事業は詐欺師のつくり話だった。おまけに恐喝相手に手口がバレ、ふとした弾みで殺してしまう。翌日、この殺人事件が思わぬ方向に転び始め・・・
殺人事件以降、予想を裏切る展開が続き、目が離せない面白さだ。ラストも皮肉な結末が待っており、見終えた後は哀しさが胸に残る。どこにでもいそうな平凡な床屋が、たった1度人生の夢を見ただけで瞬く間に転落していく様子が、憐れでたまらない。
エド役のビリー・ボブ・ソーントンの演技をじっくり見たのは今回が初めてだが、とにかく無口でセリフの少ない難役を、説得力のある演技で貫いていた。作品中1度も笑顔を見せることなく、必要最小限のことしかしゃべらない男は、一体なにが楽しみで生きているのか。そしてドリス役のフランシス・マクドーマンドがやっぱりウマイ。「ファーゴ」の女性刑事役も、「あの頃ペニー・レインと」のお母さん役もよかったが、田舎町の不倫妻も秀逸。調べてみると、私生活ではジョエル・コーエン監督の奥さんらしい。
1949年のカリフォルニアの小さな町を舞台にした、レトロな映像もイケている。人生に少し疲れた中年以上の方にオススメだ。
(2003・3・6 宇都宮)

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「ブラックホーク・ダウン」
監督 リドリー・スコット
出演 ジョシュ・ハートネット
    ユアン・マクレガー
    トム・サイズモア
(2002年/アメリカ)

1993年、東アフリカ・ソマリアの首都モガディシオ。国連平和維持軍と内戦の指導者アイディード将軍は交戦状態にあり、アメリカ軍はアイディード将軍の副官を暗殺すべく特殊部隊を市街地に投入した。ところが1時間で終わるはずの作戦が、最新鋭ヘリ・ブラックホークが1機撃墜されたところから歯車が狂いだす。仲間を救うために、敵地のまっただ中に入り込む兵士たちが、次々と襲いかかる民衆の手で殺されていき・・・
実際にあった戦闘を忠実に再現し、ちょうど同時多発テロ直後の公開だったこともあって、アメリカではセンセーショナルな話題を呼んだ。遺体になった仲間を救おうとするアメリカ兵たちと、殺されても殺されても雲霞のように湧き出てくるソマリア人たち。いくら猛訓練を受けた特殊部隊とはいっても、後方からの応援もなければ、多勢に無勢でなぶり殺しに遭うのは目に見えている。
作戦の指揮を取った軍上部の責任もさることながら、まるで人としての命を持たないかのようなソマリア人たちの描かれ方もひっかかる。製作を担当した大物プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーは「戦時下のヒロイズムを描きたかった」らしいが、これぞアメリカ人によるアメリカ中心的発想の真骨頂。内戦に苦しむソマリアの人々の視点が見事に抜け落ちていて、その徹底ぶりは恐ろしくなるほど。アメリカ以外の社会が世界には存在することを、この映画を見たアメリカ人たちに教えてあげたい気分だ。
それにしても戦争映画というのは、登場人物がみんな似通って見えてしまう。ユアン・マクレガーがあの役をする必要が果たしてあったのか。「ロード・オブ・ザ・リング」で美しいエルフ族を演じたオーランド・ブルームも、戦闘ヘリや重火器に埋もれて輝けなかった。
(2003・2・10 宇都宮)

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「裸のマハ」
監督 ピガス・ルナ
出演 ペネロペ・クルス
   アイタナ・サンチェス=ギヨン
(2002年/スペイン・フランス)

舞台は19世紀のスペイン宮廷。宮廷画家として名声を欲しいままにしていたゴヤはアルバ公爵夫人と不倫関係にあったが、公爵夫人は宰相マヌエルとも男女の関係にあった。ところが、マヌエルは公爵夫人が敵対する王妃マリア・ルイサとも不倫の関係。おまけにアンダルシアの田舎娘ペピータを見初め、館に連れ帰って愛人にするのだが、ペピータは愛人の立場に激怒する。マヌエルは怒るペピータをなだめすかし、ゴヤの傑作「裸のマハ」のモデルになるよう説得するが・・・
物語はアルバ公爵夫人が毒殺されたところから始まる。宮廷の乱れた男女関係や権力闘争を絡ませながら、毒殺事件の真相を追究すべく登場人物それぞれの過去にフラッシュバックするのだが、回想シーンの処理がわかりづらい。どこが現在進行中で、どこが回想シーンなのかハッキリしないので、観る者はオタオタしてしまう。結局、「裸のマハ」のモデルは誰なのか、公爵夫人を殺した犯人もうやむやのまま。ペネロペ・クルスの「マハ」スタイルは美しかったが、どうも決着のつけ方が中途半端で、フラストレーションがたまる作品だ。
(2003・2・9 宇都宮)

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「ヒューマン・ネイチュア」
監督 ミッシェル・ゴンドリー
出演 ティム・ロビンス
   パトリシア・アークェット
   リス・エヴァンス
(2002年/アメリカ・フランス)

類人猿に育てられた青年と、彼にマナーを教え込むことをライフワークとする学者。本当は野生児なのに無理して夫に合わせる学者の妻。夫の研究仲間で浮気相手でもあるフランス人の若い女。4人の登場人物がそれぞれの夢や野心を実現しようともがくうちに、事態は思いも寄らない方向へと進展し・・・
「マルコヴィッチの穴」の製作・監督が再び世に送り出したナンセンスコメディ。
「そんなバカな!」と叫びたくなるハチャメチャなストーリー展開なので、理屈で考える人にはオススメできない。敢えて云えば、「世間で云うところの教養」や「自然を賛美する風潮」への痛烈な風刺を作品を通して感じるが、作り手側がそれをメインで考えていたかとなると疑問だ。単に面白いストーリーを作りたかっただけではないのか。
にしても、ティム・ロビンスのような役者さんが演じるわけだから、この手のナンセンスコメディは演じる側にもきっと無視できない面白みがあるのだろう。類人猿に育てられた青年を演じたリス・エヴァンスの演技が楽しめる。
(2002・12・13 宇都宮)

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「パニック・ルーム」
監督 デビッド・フィンチャー
出演 ジョディ・フォスター
    フォレスト・ウィデカー
(2002年/アメリカ)

メグは夫と離婚し、娘と2人ニューヨーク・マンハッタンの高級住宅街に引っ越してきた。引越し先は以前金融界の大物が住んでいたという4階建てのタウンハウスで、堅牢なパニックルーム付。鋼鉄とコンクリートで固められたその部屋からは、16台の監視カメラで家全体をモニターでき、緊急物資や換気装置も完備されていた。ところが、引っ越してきたばかりのその夜、以前の持ち主の隠し財産を狙う3人組の男が侵入。メグは娘と2人、パニックルームに立てこもり、男たちとの命がけの闘いに挑むことに。
この手の作品に多いパターンだが、主人公はジョディ・フォスター演じるメグではなく、パニックルームというシステムそのものだろう。「千と千尋の神隠し」の主人公が、あの想像力あふれる湯屋の建物だったように。
なんてったって、J・フォスターがパワフル。娘を守るため、大の男相手に知恵を絞って渡り合う。娘を想う母親の表情が、演技派の面目躍如といったところだ。
それにひきかえ賊の3人組がちょっとお粗末。仲間割れを起こすのはよくあるパターンとしても、監視カメラぐらい最初にブッ壊すのが常道では? パニックルーム内の母子との連絡手段を確保したいなら、1台だけ残せばいいことだ。また、メグがパニックルームを抜け出し、様子を見に来た警察官と話をする場面もイライラさせられる。いくら娘を人質に取られて監視カメラで見張られているといっても、音声は伝わらないのだからSOSを伝えることぐらいできるではないか。
ともあれ、母子2人に4階建ての豪邸は広すぎる。人間、身の丈に合った家に住むのがいちばん。アメリカの住宅事情の素晴らしさは知っているつもりだが、目の行き届く家に住みたいと思う私はとことん日本人だと再確認した。
(2002・11・4 宇都宮)

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「ピアニスト」
監督 ミヒャエル・ハネケ
出演 イザベル・ユベール
    ブノワ・マジメル
    アニー・ジラルド
(2002年/フランス)

2001年度カンヌ国際映画賞グランプリ受賞作品。
母親からコンサートピアニストの夢を託され、ピアノ一筋に生きてきたエリカは、ウィーン国立音楽院の教授としてピアノを教える毎日。ある日、そんな彼女の前に美青年ワルターが現れる。ピアノの才能も備えたワルターは、エリカに興味を示し、ことあるごとに好意を示す。エリカは拒否の姿勢を貫こうとするのだが・・・・・・
中年になっても母親の監視下から逃れられず、恋人も作れない主人公。その凍りついた表情に、まず痛々しさが募る。ポルノショップでビデオを個室鑑賞したり、カーセックス中のカップルを見て自慰行為するといったショッキングなシーンが続くが、男性も知らずに年齢を重ねた女性の本能のなせる技と思えば、同じ女性として同情心を抱いてしまう。ストーリーが進み、ワルターとの関わりで彼女の性癖が明らかになるにつれ、さすがにアブノーマルだと感じるが、ワルターのセリフ「表面は知的だが、中身はクズ」とまでは思わない。そう断じることができるのは若さゆえの特権だ。
それにしても、母子癒着の罪の重さにはため息が出る。頭では理解しながら母親を切り捨てられない中年女性の悲しさも。ワルターとの関係は彼女が変わることができる稀有なチャンスだったのに、長年に渡る歪んだ性への執着が妨げてしまった。もう少し彼女自身が若ければ・・・もう少し彼が大人だったら・・・観る側としては、やっぱりハッピーエンドを望んでしまうのだ。
2000年のカンヌ映画祭グランプリは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だった。そして2001年が「ピアニスト」。カンヌで選ばれる作品って、ちょっと重過ぎないか? 近年のアカデミー賞作品賞にも疑問を覚えるが、カンヌと足して2で割ればちょうどいいかもしれない。
(2002・11・4 宇都宮)

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「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」
監督 ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演 スティーブン・トラスク
    マイケル・ピット
(2002年/アメリカ)

共産主義下の東ベルリンに生まれ育った青年ヘドウィグは、米兵のルーサーと恋に落ちた。彼と結婚してアメリカに渡るには性転換手術しかないと教えられ、不本意ながらも受けた手術は大失敗。1インチだけ残された男性の象徴を抱えたまま渡米したものの、ルーサーには離婚され、ヘドウィグは音楽に生きる証を求めるようになった。やがて、自らの半生を赤裸々に歌う彼女の曲に魅せられた若者が現れ・・・・・
命がけの手術を受けた直後にベルリンの壁は崩壊。夫にも捨てられた彼女のパワーが音楽に向けられ、さまざまな人を惹きつけては出会いと別れを繰り返す。彼女が回想する生い立ちから渡米後の生活、ロックスターになる若者との出会い、現在の崩壊寸前のバンド活動と、92分間に集約されたストーリー構成が見事だ。
作品中で重要な位置を占めるヘドウィグの歌だが、これがなかなかの秀作! ベルリンの大学で哲学を専攻していたヘドウィグが書いたという設定だけあって、知性を感じさせる歌詞になじみやすいメロディ。プロモーションビデオのように現れるイラストもどこか懐かしくてキュート。ライブで出会ったらきっと聞き入ってしまうに違いない。
ヘドウィグという稀有な存在を演じたのはスティーブン・トラスク。この役者さんを私は初めて知ったが、彼の好演なくして作品の成功はなかった。優しく、強く、気高く、親しみやすく、もう決して若くはないが、傷を負った者だけが知る人生の深みを感じさせてくれる。ラストシーンの解釈も人によって違うだろうから、いろんな人の意見をお聞きしたいところだ。
(2002・11・4 宇都宮)

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「ビューティフルマインド」
監督 ロン・ハワード
出演 ラッセル・クロウ
   エド・ハリス
   ジェニファー・コネリー
(2002年/アメリカ)

実在の天才数学者ジョン・ナッシュの半生を描いて、アカデミー作品賞・監督賞などを受賞した話題作。
ナッシュは21歳にして画期的な理論を打ち立てながら、国防総省の暗号解読を引き受けたことをきっかけに精神を病んでしまう。生きがいである研究を続けられなくなり、生まれたばかりのひとり息子の命まで危うく奪いかけ、とても普通の生活を営めるように見えない彼に、入院は当然の措置に見えた。ところが、妻のアリシアは家庭でともに過ごすことを選択し……
この作品に対して、私のまわりではあまり評価する声を聞かなかった。確かにラッセル・クロウの演技はスゴイ。統合失調症を病む男の狂気と現実を全身で表現し、「え、ラッセル・クロウってこんなに演技がうまかったっけ?」と恥ずかしながら再認識させられた。どこまでがナッシュの狂気が生んだ幻想なのか、観る側もだまされてしまい、病気の恐ろしさを実感できるし、ノーベル賞受賞時にもまだ病気は完治せず、幻覚とつきあいながら社会生活を送っていたことには痛々しさを感じる。
ところが、ストーリー自体は、精神を病んだ天才を妻や友人たちが支え続けるという、ごくありきたりの内容。妻の努力と夫への愛情には頭が下がるが、なにかもうひとつ盛り上がりに欠ける構成だった。思うに、孤独が病を招いたと思わせる下りもあるのだから、ナッシュの家庭環境や子ども時代に少し触れてもよかったのではないか。なぜ係累が少ないのか。なぜ孤独だったのか。R・クロウの孤独感あふれる青年の演技は秀逸だったが、なぜ彼がそうなってしまったのかを描けば、後半の家族の愛情がより生きるのではないかと思った。
(2002・10・14 宇都宮)

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「Platonic Sex プラトニック・セックス」
監督 松浦雅子
出演 加賀美早紀
    オダギリジョー
(2001年/日本)

ご存じのとおり飯島愛の同名ベストセラーの映画化だが、原作とは違った味つけに仕上がっている。原作は家出少女がタレントとして成功するまでを赤裸々に描き、俗な云い方をすれば「10代の魂の叫び」的な内容だったが、映画は恋愛に重点を置き、親との関係や仕事への取り組みなど原作で語られた部分がカットされている。タレントという特殊な職業だけに描きにくかったのだろうが、どうもモノ足りない。
主人公の少女を演じた加賀美早紀の無表情ぶりが、今風の若者のイメージと強くダブった。豊かな時代の満たされない感情。モノを消費することでストレスを発散するうちに、いつのまにか自分がモノとして取引されていく。それに気づかず目先のお金に走ってしまうのも、若いうちならいい勉強かもしれない。
出演陣の中で良かった役者さんを敢えて挙げれば、謎の金持ち遊び人を演じた阿部寛。彼が演じた人物は原作でも謎のままで、書くに書けない事情があるのだろうと推察するが、そんな人物こそ本当の意味で興味深い。
(2002・8・26 宇都宮)

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「バニラ・スカイ」
監督 キャメロン・クロウ
出演 トム・クルーズ
   ペネロペ・クルス
   キャメロン・ディアス
(2001年/アメリカ)

亡き父が遺した出版社を20代の若さで継ぎ、金にも女にも不自由しない暮らしを送るデヴィッド(トム・クルーズ)。誰もが憧れる美女ジュリー(キャメロン・ディアス)も彼にとってはセックスフレンドでしかない。そんな彼がパーティで出会ったソフィア(ペネロペ・クルス)に心を奪われる。しかし、嫉妬に狂ったジュリーが彼を道連れに車で無理心中を図り、ジュリーは事故死。一命を取りとめたデヴィッドだが、ハンサムな顔は醜く変貌してしまい、役員たちの造反で出版社の経営者の座も追われてしまう。
本当のストーリーはデヴィッドが全てを失ってから始まる。整形手術が成功し、もとのハンサムな顔を取り戻したり、ソフィアと夢のような毎日を送る一方で、どこか観る者の不安感を煽りながら物語は急展開する。オチの大ドンデン返しは確かに面白い。前フリされているので想像はつくのだが、観る側の予想以上に騙されてしまうのが心地いい。
もとはスペイン映画「オープン・ユア・アイズ」のリメイク。「オープン…」の監督アレハンドロ・アメナーバルの才能に惚れ込んだT・クルーズは、製作総指揮として「アザーズ」でアメナーバルとコンビを組んだ。おまけに「オープン…」「バニラ・スカイ」の両作でソフィア役を演じたP・クルスと実生活でもカップルになった、いわゆる話題だらけの作品だ。
そんな先入観を持って見たせいか、どうも2人のラブシーンが演技以上にお熱く見える。私生活でもスターを演じるT・クルーズにとって、ゴシップも宣伝のうちだろうが、さてあと何年この手の役柄がこなせるか。今さら脇役もできないだろうし、製作スタッフ側に名を連ねる機会がこれから増えるのかもしれない。
(2002・8・14 宇都宮)

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「ブリジット・ジョーンズの日記」
監督 シャロン・マグガイア
出演 レニー・ゼルウィガー
    ヒュー・グラント
    コリン・ファース
(2001年/アメリカ・イギリス)

出版社に勤務する32歳独身のブリジット・ジョーンズ(レニー・ゼルウィガー)の目標は、10キロの減量と素敵な恋人を見つけること。プレイボーイの上司(ヒュー・グラント)が気になるが、都合のいいように遊ばれそうで怖い。一方、幼馴染の弁護士(コリン・ファース)とも再会するが、「酒飲みでヘビースモーカーの年増女」に見られたと思い込み……
結婚したいが相手がいない。ステップアップしたいが、会社ではいつまでたっても「女の子」扱いしかされない……誰にでもある悩みを抱えた等身大の30代女性を描き、とても身近で親近感の持てる作品だ。しょっちゅう集まってはグチを言い合う友人たちとの会話もリアルだし、主役のレニー・ゼルウィガーが美人ではないがキュートで、「お友だちになりたい!」と同性にも思わせる魅力がある。ブリジット・ジョーンズ役のために増量したそうだが、ハンパではない太りっぷりで、フツーの女性の中に入ってもかなりカッコ悪い。そのハンパじゃない脂肪が、どんなにおデブさんでも、ダイエットに失敗しつづけても、明るく前向きにがんばれば誰にでも幸せな未来がやってくる…と思わせる効果的な要素になっている。   
ヒュー・グラントのプレイボーイ役を初めて見たが、さすがにサマになっていた。しかし、コリン・ファースのあのナイーブさの方が魅力的。そう見えてしまうのは主人公に自分を投影してしまうせいかもしれないが、老婆心から云わせていただくと、結婚するならプレイボーイタイプは避けるべし!
(2002・7・9 宇都宮)

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「ポワゾン」
監督 マイケル・クリストファー
出演 アントニオ・バンデラス
    アンジェリーナ・ジョリー
(2001年/アメリカ)

19世紀のキューバ。コーヒー豆輸出会社を経営する男は、新聞の交際欄で知り合ったアメリカ人女性との結婚を決意する。結婚式当日、初めて彼の目の前に現れた女性は写真とは似ても似つかぬセクシーな美女。男はたちまち彼女に夢中になり、自分のすべてを彼女に捧げる。ところが幸せの絶頂にあったはずのある日、女は男の財産とともに姿を消し…
金庫の中の財産を奪われただけなら、だまされた男の被害はまだ取り戻せた。ところが、女に惚れ込んでいた男が「女を見つけてこの手で殺す」と宣言し、行動を起こしたところから悲劇は深まる。「この手で殺す」は「この女なしでは生きていけない」と同義だ。女に何度もだまされ、それでもすべてを捧げるベタボレぶりに、「アホちゃうか」と思う向きも多いだろうが、私はむしろカンドーした。こんなにひとりの人間を愛せたら幸せに違いない。愛される女がウラヤマシイ、と素直に思う。
主演の2人がとにかくセクシー。アンジェリーナ・ジョリーは特別美人ではないのだが、全身から発散されるあの色気はいったいなんなんだろう。余談だが、「トゥームレイダー」ではまるで別の生き物のようだった彼女のバストも、ここでは普通のグラマークラスである。胸の大きさも伸縮自在にしなくてはいけないとは、ハリウッド女優も大変だ。
(2002・7・9 宇都宮)

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「フロム・ヘル」
監督 アレン&アルバート・ヒューズ
出演 ジョニー・デップ
    ヘザー・グラハム
    イアン・ホルム
(2002年/アメリカ)

19世紀末ロンドンを震撼させた切り裂きジャックの事件を、あっと驚く真相で描いたサスペンスホラー。
ロンドンの下町で、娼婦が惨殺される事件が続く。内臓を鋭利な刃物でえぐり出す手口に、担当のアバーライン警部は犯人を屠殺業者か皮革職人、または外科医だと推理し、外科医にターゲットを絞って捜査に乗り出す。一方、ある娼婦と赤ん坊の失踪事件が切り裂きジャックに深く関係することがわかった。しかし捜査が核心に迫るにつれ、アバーラインの捜査を妨害する勢力が見え隠れしはじめ…
切り裂きジャックがインテリだったというだけなら驚かないが、英国王室まで巻き込むスキャンダルが背景にあったという設定には驚いた。これがもし本当に本当の真相だったとしたら、21世紀の今でもとんでもないスキャンダルだ。当時の支配階級が下層階級や移民、ユダヤ人に対して根強い差別意識を持っていたことは作品の中でたびたび強調されており、事件の真相がいっそう痛烈な皮肉に満ちている。事件の鍵を握る秘密結社フリーメーソンが、日本人には馴染みが薄くてわかりにくいのが残念だ。
ジョニー・デップは相変わらず蔭のある役がよく似合う。「スリーピー・ホロウ」の捜査員ともカブる役どころだが、阿片中毒のキレ者刑事という設定がよけいハマッた。娼婦役のヘザー・グラハムとの純愛も泣かせる。王室の侍医役のイアン・ホルム、J・デップの部下役のロビー・コルトレーンなど、脇役もよかった。
ホラーが苦手な方も、ホラーシーンだけ目をつぶってやり過ごして見てほしい作品だ。
(2002・7・5 宇都宮)

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「ハリー・ポッターと賢者の石」
監督 クリス・コロンバス
出演 ダニエル・ラドクリフ
   ルパート・グリント
   エマ・ワトソン
(2001年/アメリカ)

やっとこさ「ハリー・ポッター…」を見た。
原作者のJ・K・ローリングが「原作に忠実に映画化すると約束してくれたワーナー・ブラザーズに映画化権を与えた」と語っていたとおり、細部まで忠実。原作を読んだ人にはお馴染みのシーンが映像となって現れて楽しみ倍増だが、読んでない人には正直よくわからないストーリーなのではないだろうか。現に、原作を読まずに映画を見た私の友人は、「全部を理解できない。映画としての盛り上がりがない」とこぼしていた。まさにその通りの内容だった。
原作はホグワーツ魔法学校の1年間を通して描いているので、原作通りに映像化すると盛り上がりに欠けてしまうのは当然だと思う。また、日常生活のエピソードの豊富さ、登場人物の多さも映像ではシンドイところだろう。たとえば寄宿舎に住みついているポルターガイストとその飼い猫など、ストーリーに直接絡まない登場人物は映像では覚えきれない。やはり、この映画は原作のファンが楽しむためのものだと思う。そういう意味では「ロード・オブ・ザ・リング」に似ている。
全体には丁寧な作りだが、特撮シーンがややチャチイのが残念。その代わり、ホグワーツの舞台となった古い教会など、ロケ地の美しさはさすがにイギリスならではだ。ハリー、ロン、ハーマイオニーの主人公3人組の子役もとても可愛くて、彼らがこれからどんなふうに成長していくのか第2作・第3作が楽しみだ。
(2002・6・28 宇都宮)

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「ボーイズ・ドント・クライ」
監督 キンバリー・ピアース
出演 ヒラリー・スワンク
   クロエ・セヴィニー
(2001年/アメリカ)

1993年、アメリカ・ネブラスカ州。片田舎の小さな町に、ふらりとやって来た若者ブランドンは、温厚な性格と少年のような容姿で、たちまち町の人気者になる。ある日、彼はふとしたきっかけで出会ったラナにひと目惚れ。やがてラナもブランドンの愛に応えるようになるが、実はブランドンは性同一性障害に悩む女性だった。
からだは女性だが、心は男性。今ではすっかり一般に知られるようになった性同一性障害だが、10年前のアメリカの片田舎では、まだまだ偏見が激しい(もちろん、現代の日本でも偏見は大いにあるだろうが)。登場人物はみな、財産があるわけでもなく、教養が高いわけでもない、平凡な暮らしを守り続ける庶民。その平凡で閉鎖的な社会の中で、いかに自分を男性に見せるか、周囲の人々に病気を理解してもらえるか、主人公の懸命な努力が悲劇的なラストまで淡々と描かれ、痛々しさが募る。
主演のヒラリー・スワンクはこの作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。男性に見せるためのちょっとした仕草や話し方など、体当たりの演技に頭が下がった。
(2002・2・18 宇都宮)

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「初恋のきた道」
監督 チャン・イーモウ
出演 チャン・ツィイー
    スン・ホンレイ
(2001年/中国・アメリカ)

山村の小学校に、町から若い教師がやって来た。盲目の母と暮らす18歳の少女は、新任教師に村人にはない知性を感じ、授業中、彼が朗読する声を聞くために、毎日学校のそばの井戸に通う。やがて、教師も少女に好意を示しはじめるが、町に無理やり連れ戻され…
「あの子をさがして」のチャン・イーモウ監督作品。まだ自由恋愛も珍しい時代に、村の少女が来る日も来る日も町へと続く道で、恋しい男が帰って来るのをひたすら待ち続けた姿を、叙情あふれる映像で描いている。
ストーリー自体はよくある初恋物語。主人公の2人はやがて結ばれ、40年後夫の葬式で妻が悲しみを抑えながら、変わらぬ愛情を表現するラストシーンが泣ける。障害があるから愛は燃え上がり、夫を尊敬するから妻の愛情は変わらない。40年前の中国の山村で、字の読めない少女が町から来た教師をどれほど尊敬したことか。とりわけ中国では、教師という職業の社会的地位は高い。
それにしても、主演の少女を演じたチャン・ツィイーのかわいいこと! 「グリーン・デスティニー」とはまるで正反対の役どころだが、うぶな少女を無難に演じており、作品中でも彼女のアップショットがやたらと多い。「ひょっとしてピンナップ映画か?」と思わせるほどだ。
しかし、村いちばんの美少女が恋をした相手にしては、相手役の男優がいくらなんでもダサすぎ。もっと2枚目の役者がほかにもいるだろうに、監督の意図はいったいなんだったのか? 
(2002・1・19 宇都宮)

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「バガー・ヴァンスの伝説」
監督 ロバート・レッドフォード
出演 ウィル・スミス
    マット・デイモン
    シャーリズ・セロン
(2001年/アメリカ)

大恐慌下のアメリカ南部の町サヴァナ。町が生んだ天才ゴルファー・ジュナ(マット・デイモン)は戦争で傷つき、抜け殻となって生きていた。一方、彼のかつての恋人で富豪の娘アデール(シャーリズ・セロン)の父は、ゴルフ場への巨額の投資で行き詰まって自殺。アデールは父の後を継ぎ、起死回生のゴルフマッチを企画する。ジュナはアデールの出場依頼を一旦は断るが、不思議な男バガー・ヴァンス(ウィル・スミス)に出会い、ゴルフマッチに出場することになり……
冒頭で描かれる大恐慌の様子は現在の日本と重なり、胸が痛む。しかし、スカーレット・オハラを引用するまでもなく、南部女は強い。昔、自分を捨てた男と向かい合っても、決して折れず、媚びず、堂々とビジネスの駆け引きに出る。
例によってM・デイモンは傷ついた青年の再生をうまく演じているが、フシギなのはバガー・ヴァンス。彼っていったい何者? 一流のキャディーであることはわかるが、青年の心理を巧みに操り、決して押し付けたり説教したりせず、次のコースへ敢然と立ち向かわせる手腕は神がかり的でさえある。
それにしても監督のロバート・レッドフォードは昔、自ら主演した「ナチュラル」という映画でも野球のスーパーヒーローを描いており、スポーツにとてもファンタジックな思いを持っているようだ。スポーツの持つ夢、希望、力は私も大いに賛同するところ。日曜のゴルフ場で見栄と打算のラウンドを繰り返すオヤジゴルファーたちに、脳細胞を洗い直して観てもらいたい作品だ。
(2002・1・1 宇都宮)

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「パール・ハーバー」
監督 マイケル・ベイ
出演 ベン・アフレック
    ジョシュ・ハートネット
    ケイト・ベッキンセール
(2001年/アメリカ)

「アルマゲドン」の製作+監督コンビが、「タイタニック」を超える史上最高の製作費200億円を投じて作り上げた戦争スペクタクル大作。
レイフ(ベン・アフレック)とダニー(ジョシュ・ハートネット)は幼なじみの親友同士。ともに空軍パイロットを志すが、レイフはヨーロッパ戦線に志願し、戦死の報が恋人イヴリン(ケイト・ベッキンセール)のもとに届く。悲しみに暮れる彼女をダニーがなぐさめるうちに、2人の間に愛が芽生える。が、レイフが生還。その直後、日本軍による真珠湾攻撃が彼らを襲い…
ラブストーリーはどこかで見たような話である。真っ先に思いつくのは「サイダーハウス・ルール」か。ラストもあまりにも予想どおりで、もう少しヒネリようがなかったのかと思う。おまけにヒロイン役のK・ベッキンセールがイマイチ美人じゃない。というか花がない。幼い頃からの親友同士が争うのだから、それなりに誰が見ても納得できるキャスティングをしてほしい。
にしても、真珠湾攻撃の戦闘シーンは圧巻だ。オアフ島の渓谷をゼロ戦が駆け抜けるシーンは、まるで目の前をゼロ戦が通り過ぎたような迫力。魚雷の視線で戦艦アリゾナに迫り、水中からの視線で真珠湾に浮かぶアメリカ兵の累々たる死体を見上げる。仲間の命を救おうと限界を超えた努力が続けられるが、3000人の戦死者が出、兵士たちの怒りは日本へと向けられる。ラスト近く、彼らが日本で落とした爆弾は、今度は多くの罪もない日本人の命を奪っただろう。まさに今年アフガンで繰り広げられた怒りと復讐の連鎖だ。
鳴り物入りで公開されたが、その割にはヒットしなかった要因は、ありきたりなストーリー展開と負けることがキライなアメリカ人には未だにパールハーバーは受け入れられない事実だということだろう。
数年後、同時多発テロの映画がきっと作られるだろう。果たしてアメリカ人は、あの事件を映画館のスクリーンでもう一度見たいと願うだろうか。
(2001・12・28 宇都宮)

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「ハンニバル」
監督 リドリー・スコット
出演 アンソニー・ホプキンス
    ジュリアン・ムーア
(2001年/アメリカ)

物語は「羊たちの沈黙」から10年後。ハンニバル・レクター博士は、イタリア・フィレンツェで司書の仕事に就こうとしていた。一方、FBI捜査官クラリス・スターリングはひたすら仕事に邁進する日々。ある事件捜査で同僚が不慮の死を遂げた責任を問われ、再びレクター博士の行方を捜査するよう命じられる。
「羊たちの沈黙」はサイコ・ホラーのジャンルを超えた傑作だった。プロファイリングという捜査手法を世に知らしめ、レクター博士という魅力的なキャラをA・ホプキンスが見事に演じ切った。今作でもA・ホプキンスの名演技は健在で、類まれなる頭脳を持つ博士の天才と狂気を、例によって抑え気味に表現している。
一方、ジョディ・フォスターの降板でクラリス役を演じることになったジュリアン・ムーアもなかなかの好演。クラリス役が変わった違和感は全く感じなかった。
ちなみに、J・フォスターは「脚本が納得できない」という理由で降板したらしいが、気持ちはわからないでもない。「あの博士がこういう展開になるか?」とは私も思うが、なんせ向こうは天才、こちらは凡人。細かい点は突っ込まず、博士についていくしかない。博士のグルメに関しては見るに耐えないグロテスクなシーンもあるので、手で顔を覆ってやり過ごそう。
ところで、今作では博士に対抗する魅力的なキャラとして、かつて博士に顔の皮を剥がれながらも生き残った億万長者が登場する。演ずるのは、わが愛しのゲイリー・オールドマン。さすがに役者としての狙いどころがマニアで楽しい。しかし、特殊メークがスゴすぎて、最後までゲイリー様とわからなかった私はファン失格である。
(2001・11・24 宇都宮)

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「バーティカル・リミット」
監督 マーティン・キャンベル
出演 クリス・オドネル
    ビル・パクストン
(2001年/アメリカ)

世界第2位のヒマラヤの高峰K2を舞台に繰り広げられるアクション大作。
標高8000mの山中でクレバスに落ちて動けない3人を救うため、必死の救出劇が繰り広げられる。ニトログリセリンの爆発、雪崩、断崖絶壁での宙吊りと、人間の生存限界(バーティカル・リミット)を超えた高峰の前に犠牲が増えていき…
アクション映画のお約束どおり、息もつかせぬシーンの連続だが、人間ドラマもちゃんと絡ませている。3年前に遭難した妻の遺体を捜し続ける一匹狼の登山家には少し泣けた。この登山家を演じたスコット・グレンが渋い! 今回、いちばんオイシイ役どころである。マニアなところでは、「X-ファイル」でクライチェクを演じるトム・マクラレンも出演しており、クライチェク以外の彼が見られる。
アクション映画好き、登山好き、あるいはC・オドネル好き、もしくはC・オドネルに代表される典型的アメリカンハンサム好きなら、見る価値は大いにある。でも、高所恐怖症の方はやめておいた方がいい。
(2001・11・3 宇都宮)

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「ペイ・フォワード」
監督 ミミ・レダー
出演 ケビン・スペイシー
   ヘレン・ハント
   ハーレイ・ジョエル・オスメント
(2000年/アメリカ)

まず、自分からすすんで3人の人間に幸せを分け与える。その3人が、また別の3人に幸せを分け与える。そうすれば全米に幸せの輪が広がる。新任教師から受けた社会科の授業で、「世界を変えてみよう」と課題を与えられたハイスクール1年生の少年が考えたこのアイデアは、大方の予想どおり挫折したかに見えたが…
前もって知っていたこのストーリー、これを読んだだけではハッキリ云って映画を見る気がしない。健気な少年がガンバり、善意の大人たちが彼を助け、せちがらい世の中で報われるはずのない行為が奇跡的に報われる人情モノ(?)が想像されてしまうから。
しかし実際に見たところ、私の予想よりずっといい作品だった。アル中と闘い、ストリップバーでウェイトレスをしながら少年を育てている母親像と、インテリだが心とからだに傷を負う社会科教師像がしっかり造形されているからだろう。2人を演じたH・ハントとK・スペイシーがまたウマイ。
小さなエピソードを積み重ね、辛味の効いたラストに持っていったミミ・レダー監督は、今や人間ドラマを描かせれば第一人者。「ディープ・インパクト」もSFのカタチを借りた人間ドラマだったが、地味ながら押さえどころを知っている。
(2001・10・2 宇都宮)

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「ホワイトアウト」
監督 若松節朗
出演 織田裕二
   松嶋菜々子
   佐藤浩市
(2000年/日本)

真冬の新潟県の山中。日本最大規模の奥遠和ダムがテロリストに占拠された。職員たちが人質にとられたが、ダムに通じる一本道はトンネルを爆破され、悪天候のため自衛隊のヘリも現場に近づけない。しかし、偶然ダムの外にいたひとりの運転員が、警察も自衛隊も動けない極限状態の中、テロリストに立ち向かう…
巨大ダムという舞台設定はハリウッド映画にも思い当たらないし、「へー、ダムの中ってそうなってるんだ」的なモノ珍しさがある。ミリオンセラーになった真保裕一さんの原作は読んでいないが、さぞかしダムを調べ尽くして書かれたものなのだろう。この作品では脚本も担当されたが、ラストのどんでん返しが少しわかりにくかったのが惜しい。
しかし日本を舞台にしたアクション映画というのは、どうしてこう現実感に欠けるのだろうか? 武器なんて持ったことがない一般人が、いくら非常事態とはいえテロリスト相手に闘えるのだろうか? そのテロリストもホームドラマで見かける顔があったりして、(役者さんのせいではないが)これまた怖さに欠ける。主人公はテロリスト数名を倒した(殺した)が、正当防衛とはいえ、これからの彼の人生は…? と、「事件」よりも「日常」に想いが飛んでしまう。要するに、戦後日本の平和と中流階級意識にどっぷり浸かった頭には、生活感のない日本映画を受け入れる素養があまりないのだ。
近頃いちばん気になる役者さんである吹越満さんと、ヘルニアになりながら頑張った(?)織田裕二さんにエールを送りつつ、日本映画の未来をほんの少し考えてしまった。
(2001・8・28 宇都宮)

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「プルーフ・オブ・ライフ」
監督 テイラー・ハックフォード
出演 メグ・ライアン
   ラッセル・クロウ
(2001年/アメリカ)

舞台は南米の某国。ダム建設技術者の夫をテロリストに誘拐された妻にM・ライアン。誘拐専門の敏腕交渉人にR・クロウ。夫を救出すべく協力しあう2人の間にやがて愛がめばえて…という、よくあるストーリー。結末も予想どおりである。
技術者として世界中を転々としたアメリカ人夫妻が、いざ夫の誘拐という非常事態になると会社は誘拐保険に加入しておらず、しかも身売り交渉の真っ最中で社員の1人ぐらい誘拐されても知らん顔。まともな交渉人を見つけるまでがひと苦労の上、65万ドルという高額の身代金を自腹で用意しなくてはならない。言葉も通じない異国で、女ひとり味方もおらず…という事態になれば、R・クロウでなくても頼りになる男なら惹かれるのは当たり前。でも、ラストで他の交渉人仲間とともにゲリラ基地を襲撃し、命がけで人質を救い出すシーンは、男気が炸裂していてカッコイイ。
もし、私がM・ライアンの立場ならどうするか考えた。どうにもこうにも、誘拐のプロの相手は交渉のプロに任せるしかない。お金は借金してでもかき集める。だから、過酷な人質生活に耐えるだけの体力をつけておけ、とダンナに要求したい。R・クロウのような2枚目の交渉人は真夏の夜の夢みたいなもの。まあ、それ以前に、我が家が海外赴任する可能性は限りなくゼロに近い。
(2001・7・24 宇都宮)

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「ホワット・ライズ・ビニーズ」
監督 ロバート・ゼメキス
出演 ハリソン・フォード
    ミッシェル・ファイファー
(2000年/アメリカ)

湖のそばに建つ豪邸で、日がな1日家事とガーデニングをして過ごす主婦にミッシェル・ファイファー。エリート遺伝学者のその夫にハリソン・フォード。幸せを絵に描いたような生活のはずが、ひとり娘を大学の寮に入れた直後から妻が空の巣症候群に陥り、家の中で幻聴が聴こえたり、幻が見えたりしはじめ……
この正月の数少ない話題作のひとつだったが、あまり事前情報を持たずに見たせいか、最後まで楽しめた。サイコ・サスペンスかと思いきや、実は○○○なオチである。
ファッショナブルで都会的な女を演じさせれば右に出る者がなかったM・ファイファーも、今や大学生の娘を持つ母親役。そして、正義のヒーローを演じ続けてきたH・フォードが○○な役どころで、ファンには少しショッキングかも。
この作品から得た教訓は4つ。@あんまり豪邸に住むものではない。広すぎて、家を維持するだけで一生終わってしまう。Aおまけに人里離れた場所だと人恋しさが募り、精神衛生上よくない。B持つべきものは女友達である。男は頼りにならない。Cいくらエリートのいい男が目の前に現れても、それまでのキャリアを全部捨てるのは考えもの。
これから結婚される方、家を購入される方はご参考までに。まあ、超エリート遺伝学者の夫も湖のほとりの豪邸も、日本ではまずないだろうけど。
(2001・6・3 宇都宮)

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「パーフェクト・ストーム」
監督 ウォルフガング・ペーターゼン
出演 ジョージ・クルーニー
   マーク・ウォールバーグ
(2000年/アメリカ)

本当にあった話、らしい。
しかし、主人公が乗った船は嵐に巻き込まれて乗員全員死亡。原作者は一体どの登場人物に当たるのか、不勉強にして知らない。夏にテレビ朝日系「たけしの万物創世記」で台風特集を兼ねて宣伝していたが、忘れてしまった。
特撮はたしかにスゴイのだろうが、もう特撮技術だけでは驚かないし、人間ドラマもありきたり。前フリが長すぎて、やや退屈。2時間を超える上演時間もツライ。
出演陣は、なつかしいところでダイアン・レイン、カレン・アレン、メアリー・エリザベス・マストラントニオなどが出ている(なつかしいと云うと叱られる人も混じっているかもしれないが)。ダイアン・レインがカジキ漁師のおかみさん役を演じているのには、感慨を覚えた。あの「リトル・ロマンス」のカワイイ女の子が、子持ちバツイチのおかみさん! 私もトシを取るはずだ。
(2000・12・16 宇都宮)

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