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CINEMA LIBRARY 〜や行〜
 
作品名 監督
ヤ行
山の郵便配達 フォ・ジェンチイ
U-571 ジョナサン・モストウ
ゆりかごを揺らす手 カーティス・ハンソン

「ゆりかごを揺らす手」
監督 カーティス・ハンソン
出演 アナベラ・シオラ
    レベッカ・デモーネイ
    マット・マッコイ
(1992年/アメリカ)

10年前の作品だが、サスペンスファンの間でいまだに話題になるのが「ゆりかごを揺らす手」。評判どおりの秀作だった。
夫と幼い娘と幸せな日々を過ごす主婦クレア(アナベラ・シオラ)は、第2子妊娠の診察に訪れた産婦人科で医師からわいせつ行為を受ける。クレアが警察に訴えたことで問題の医師は自殺。残された医師の妻ペイトンはショックのあまり流産し、2度と子どもを産めないからだになってしまう。数ヵ月後、男の子を出産し、ベビーシッターを探していたクレアの前に、素性を隠したペイトンが現れる。なにも知らないクレアはペイトンを雇い、ひとつ屋根の下で暮らしはじめるが、次々に一家の平和を乱す出来事が起こり・・・
そうとは知らずに我が家に招き入れた敵が穏やかな家庭に波風を立たせていくが、主人公はなかなかこのことに気づかない。そのあたりの見る側の焦燥感やイライラがこの手の設定の面白いところ。ペイトンの復讐はいきなりクレアや赤ちゃんを襲うのではなく、クレアを一家の主婦の座から追い出し、妻と2児の母という立場に取って代わろうとする計画だ。だから幼い娘の心を掴むことや、夫に妻への不信感を芽生えさせることなど、日常のほんの小さな積み重ねから復讐がはじまる。
女性の立場から見ると、こういう手口は本当にムカツク。専業主婦ほどその気持ちが強いのではないか。裕福で優しい夫と可愛い子どもたち。家事とボランティア、趣味のガーデニングで過ぎていく毎日に、幸せいっぱいの妻。この幸せをいきなり外から入ってきたベビーシッターに奪われてしまうことは、専業主婦にとって人生のすべてを失うことに匹敵するのでは。
脇役ではジュリアン・ムーア演じるクレアの親友マリーンが面白い。クレアがおっとりした専業主婦であるのに比べ、こちらはやり手の不動産セールスレディ。キャラクターを誇張し過ぎている感はあったが、事態を解決しようと最初に動くのはこういう行動力のあるタイプ。私にとって、いちばん感情移入しやすいキャラだった。
それにしても、アメリカ女性にとっても、クレアのような暮らしが一種の理想なのだろうか。趣味のガーデニングに打ち込むために、住み込みのベビーシッターを雇うという設定にも驚いた。これがアメリカ地方都市のホワイトカラー家庭のスタンダードなのか、ちょっと判断できないでいる。
(2003・7・30 宇都宮)

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「山の郵便配達」
監督 フォ・ジェンチイ
出演 トン・ルゥジュン
   リィウ・イェ
(2001年/中国)

1980年代、中国・湖南省の山間部。まともな道路すら通じていない山奥の集落に、徒歩で郵便配達を続けてきた男が、息子に仕事を譲ることになった。雨の日も雪の日も、重い荷を背負って120キロの山道を3日間で踏破する重労働。その苦労を身にしみて知っている男は、息子が仕事を継ぐことに反対する。一方、現代っ子の息子は「公務員だから安定している」と気楽なもの。そんな父子が3日間の行程をともにするあいだ、息子は父に尊敬の念を、父は息子の成長に深い喜びを感じはじめる。
山田洋次作品を思い出させるような人情ストーリー。水墨画のような中国の山村の風景、少数民族のお祭りシーンなど、映像の美しさも見せつつ、父子の情で泣かせるシーンはちゃんと泣かせる。車も通れない山奥の村にしては登場人物に美男美女が多すぎて、ちょっと"作り過ぎ"の感もあるが。
中国映画を見るたびに、今どきこんな山奥の村があるのか、こんな暮らしをしている子どもたちがいるのかと、中国の広さ・奥深さに驚きを隠せない。この作品の場合、シチュエーションのインパクトではチャン・イーモウ監督の「あの子をさがして」や「初恋の来た道」に勝るが、人間ドラマという点ではやや物足りなさが残った。
(2002・6・27 宇都宮)

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「U-571」
監督 ジョナサン・モストウ
出演 マシュー・マコノヒー
    ビル・パクストン
(2000年/アメリカ)

1942年春、ドイツ海軍の誇る潜水艦Uボートは北大西洋上で連合軍を圧倒していた。その理由のひとつが、Uボートに搭載された暗号器"エニグマ"。アメリカ海軍巡洋潜水艦S-33副艦長タイラー大尉のもとに下った命令は、自らの潜水艦をUボートに偽装し、事故で停泊中のUボートU-571に接近して乗り込み、"エニグマ"を奪うことだった。
北太平洋上の「トロイの木馬」作戦はたしかに面白い。監督が8年かけて構想し、取材を重ねただけあって、潜水艦内の様子もリアルで迫力満点だ。危機また危機のハラハラの展開も、よく練られている。
しかし、設定をいくら練ってもストーリーを動かすのは生身の人間たち。だからこそ、性格が優しすぎて艦長になれない主人公・タイラー大尉の成長物語をからませたわけなのだが…。
残念ながら、任務を全うするために心を鬼にして部下を犠牲にするリーダーというものに、私は共感できなかった。ほんの少し想像力をふくらませて、アメリカ海軍を現代日本のビジネス社会に置き換えてみる。部下を犠牲にし、業績を上げた者が英雄としてチヤホヤされる古くて新しい図式。北大西洋の戦場では部下は命を落とし、現代日本ではリストラされたり、冷や飯を食わされたりする。ビジネスと戦争は別、という意見もあるだろうが、実はどちらも人の上に立ちたい人間が、ドロドロした権力欲に大義名分という甘い味をコーティングしているだけ。
少なくとも私にはそう見えた。
(2001・3・14 宇都宮)

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